第2話 失踪した子供
「エイミー、村まではあとどのくらい? 急がないと、子供たちが」
「焦らないでノエル、ここで私達が体力を使い果たしたらなにもできなくなる、そしたら本末転倒よ」
確かにエイミーの言う通りだ。 急ぐのはもちろん大事だとして、なによりの目的は子供たちを無事に見つけ出すこと。
私とエイミーは腰に掛けた容器から水分を補給すると呼吸を整えてからひたすらと進みロカムを目指した。
途中急ぎ過ぎたからか足に若干の痺れを感じる。 こういう時ヒールが万能だったらな..怪我は治っても疲労は治らない不便さについぼやきたくなる。
「せっかくの古来伝承の英霊術も疲労回復は薬草に負けるってのがなんかなぁ、裂傷や骨折にその他あらゆる怪我のほとんどが治せるなら走った痺れくらいさぁ」
「まぁまぁノエル、怪我が治るんなら御の字じゃない、術を生み出した人は滋養強壮より治癒を取ったのならそれだけ昔は過酷な時代だったってことじゃない? そうそう死なない時代に生きれてるだけ感謝かもね」
確かにエイミーの言う通りだ。 昔はあちこちで戦乱が勃発していたんだとか、そんな戦の渦中に置かれるなんて考えただけでゾッとする。
肝が冷えるような錯覚を覚える頃には脚の痺れは消え去っていた。
「なんとか楽になったね。 子供たちが心配..急ごう」
焦らず急いでどうにかロカムに到着したのだが..どうにも違和感が拭いきれない。
事件の渦中だから村に活気がないのはもちろんだがどこかおかしい。
「ノエルも気づいたっぽいね。 少数の子供さえいないなんて、この時間ならこの辺りで遊んでるはずなのに..あそこの大人たちも多分捜索してるんじゃないかな?」
私達は事情を知っはいるがいきなりすぎると取り乱さないとも限らないな。
少し形式ばる感じで聞いてみよう。
「こんにちは、私達ピオスのHEART・PROTECTIONです、どうされましたか?」
夫人は憔悴しきった様子で問いに答えた。
「もうリックが、息子が7日も帰ってこないんです。 主人も一緒に探してくれてますが、手掛かりが全然見当たらなくて、私、どうしたら..」
取り乱す夫人にエイミーが対応してくれた、エイミーナイスっ。
「大変でしたね、大丈夫ですよ。
お話の程は伺っています。 そのために私達は来たのですから..今から村長さんのお宅に向かいます。
奥様もきっと疲れていることでしょう、 後は私達に任せてどうかお休みになってください。
エイミー接客応対丁寧ですごいなぁ、いつもの活発さからしたらすごいギャップだよ、私じゃ真似できない。
夫人は『どうか..後をお願いします』と一言だけ告げるとおぼつかない足取りで自宅へと帰られた。
夫人を見送り終えたエイミーはがぜんやる気を見せる。
「さて、村の事情はおおよそ掴めたから村長さんのお家に行こうか」
「そうだね。 村長さんならもっと重要な情報知ってそうな気がする」
「あなた方がHEART・PROTECTIONの方々ですな?」
村長がこちらに元気がなさそうに尋ねてくるとエイミーは返答後、改めて事件の経緯を尋ね返した。
「その通りです。 おおよその経緯は店長より伺ってはいますが業務上、今一度詳しい事情を聞かせてくれませんか?」
「そうじゃのぅ、事の始まりは一週間前じゃった。 村一番元気なリックが帰ってこなくなったんじゃ。
それから後に続くように他の子もどこかに行ってしまっての..村から出るとは思えぬが、きっとあそこ以外行くとは思えぬのじゃ」
「あの、あそことはどこですか? 7日間そこは捜索しなかったんですか?」
問いかけるも一瞬都合が悪いように下をうつむく村長、なぜだか気味が悪い。
妙な違和感を感じる、なにか..村長は尤もなことを言ってるようで何かを隠してるような、あそことは?
「わかりました。 子供たちは無事見つけます任せてください!」
エイミーは意気揚々と答えてる風に見せてるが怪しんでるのが私にはわかる。 彼女は物事を怪しむとこめかみがピクピク動くのを何回も見てきたから今回もなにか裏があるのだろう。
早速捜査に乗り出そうとする私達に村長は『村の外に出ることはまずないので村内を重点的に探してください』と一言添えてきた。なんでわざわざそんなことを?
「エイミー気付いた? なんか村長さん話の途中からなんか怪しい」」
「ノエルも? あたしも同じことを思ったわ。 行方不明から一週間経っての依頼したならなぜ探してない場所が残ってるの? 村の外を探すのを頑なに拒む理由は? いろいろと不自然すぎるわ」
「とにかく急がなきゃね、確か村の人の話だと村長さん最近祠に出入りしてたみたいだから私はそこを重点的に探してみる。 エイミーは聞き込みの方よろしく」
エイミーは『任せて』というと村の各世帯に聞き込みに向かった。
さて、祠は村の各所に4つ..東の祠から調べてみよう。
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「うわっ、祠ってこんな陽の射さないとこにあるんだ。 確か効いた話だとこの辺り..あった。 これは、なにかのメッセージ?」
--2の月、正午の時太陽は月と引き合い天と地を繋ぐ--
これだけだとよくわからないから全ヵ所を回ってみようと思い西の祠に向かったらまたも奇怪なメッセージが残されていた。
--2の月、正午にて月の上の供物を神の光は照らす--
また正午だ。 なにがあるというのだろう、なんか胸騒ぎがする。
南の祠には『太陽と月が引き合い、冥府の者を再臨す』と残され、最期に北の祠のメッセージを読んだ時、全てを理解した私は急いでエイミーの元へ向かった。
これまでの祠のメッセージと北の祠のメッセージを繋ぎ合わせたらそれはおぞましい意味を表していた。
--2の月の正午、東から昇りし太陽は月と共に天地を繋ぎ神の光が供物照らす時、冥府の者再臨す--
聖堂は生者と死者を繋ぐ場所で正午は太陽と月が対角線になる時間、この世とあの世を結ぶ施設は聖堂。 供物は..まさかっ!
最初からおかしいと思った。 なぜ村長は不審者の可能性を示唆しなかったのか、なぜ村内に固執したのか、そして祠がどういう意味を示しているのか、急がなきゃ!
「エイミー聞いてっ、急いで聖堂に向かわなきゃっ、村長さんが..急がないと子供達がっ」
「村長がクロなんでしょ? 言いたいことわかるわよ。 聞き取りしてたらどれもおかしな点だらけじゃないの」
「エイミー、どうしてそれを?」
「村の人に聞いたら村長が村人に『あとはワシと便利屋さんでなんとかするので関わらないように』と釘を刺したみたい。
それに外部からの誘拐の可能性を頑なに否定したこと、シスターは聖堂から出るよう言われたのを聞いて変だと思って再度聞き取りしたらリック君の両親は村長にバレずに捜索していたこと。
どう考えてもおかしいと思って村長宅に行ったらもぬけの殻なのよ。 ノエルの方はなにかわかった?」
「うんっ、各祠の陣全て繋ぎ合わせたら村の聖堂を示す矢印になった。 それで聖堂の位置の陣の上に人の絵柄があったからまさかと思って..」
「これ、生贄とかの類の紋様じゃない..子供達さらってなにしようっての? 急ぎましょ、手遅れになる前に止めないとっ」
私達は体力の限界を迎えても走り続けた。
脚の震えが止まらない、だけどそんなことはかまっていられない。 一刻も早く急がないと子供がっ
「ノエル、聖堂ここで..合ってるよね?」
「だっ、大丈夫なは..ず。 まず、落ち着いて..」
息を殺し扉に耳を近づけた。 扉の向こうから子供の『かえりたいよ』 『こわいよ』。
恐怖の声が聴こえる、急がなきゃ..でも下手に開けたら子供が..
「ノエル、霊素分けて!」
「え? うん、でもなにを..」
「はあぁぁ、吹っ飛べえぇー!」
エイミーは弓から霊素の塊を放つ。 すると扉は派手に砕け散り、私とエイミーは急いで聖堂内へ進んだ。
「なにこれ..ひどい」
連れ去られたであろう子供が縛られた状態で陣の上に座らされてる、最低限の食しか与えられなかったのか、ひどく痩せこけてる。
「待ってて、今助けるからっ、えっ?」
近寄ろうとした時、見えない何かに脚を掴まれた。
「ノエル! 村長..アンタ子供やノエルになにしようってのよ! 待ってて今っ」
「来ないで! エイミーまで捕まったら..私はなんとか抜けれるかやってみるから策をっ」
うわごとらしきことを言う村長..正気を失くしてる?。
「ニエヲ、こノ世カイにフクシュウヲ」
「策って、火の矢も雷矢もここからじゃ子供にまで..
」
(ダメだ、引きずり込まれる)
抵抗するも私は引きずられ陣に到達しようとしていた。 だが次の刹那、視界が強く光ったことに気付いたのと同時に私は入り口に戻っていた。
助かった? それよりもこの転移術はもしかして..。
「ヤッホ、ノエルちゃんにエイミーちゃん」
突然現れたパープルのポニーテールのお姉さんに私達は思わず驚きの声を上げた..見たところ怒ってるっぽい。
「ル、ルーシー!? 別の依頼で席外してたんじゃ」
「ちょっと店長から通信入ったから早めに戻って来たのよ。
まったくっ、なんでウチってこうも人手不足なのかしらっ。
とにかくこの村長さん見たところ正気じゃないみたいだし、ノエルちゃんにひどいことした罰も含めてお仕置きしなきゃね」
「村長さん操られてるかもだから手加減だよ? エイミーはルーシーの援護に行って、私は子供たちを逃がしてくる。
急がないと。 お願い、無事でいて..