第7話 書き換えられた陣と謎の剣士
「市長さんが? わかった。 街の結界はもう復活した? 」
モニカの話によると街の司祭の方々が陣を張り直したおかげで間もなく復旧がされるみたい、なんでも陣が書き換えられていたんだとか。
街の門の近くへ戻ろうとした来た時だった。 私やエイミーより先にモニカがその存在に気付いた。ウェーブの長髪は夕日のように赤い毛色をしていてる。 あの身なりからして..剣士?。
「あの、どこへ行くの? さっき危ない魔物が周りにいたからまだ出ないほうがいいよ?」
忠告を受けた人物は若干戸惑いつつ『いえ、平気』とだけ答えたらそのまま歩いて行ってしまい、モニカが気に掛けるが、私とエイミーが感じていた印象は全く違うものだった。
「まださっきのような魔物がいないとも限らないのに、あの人大丈夫なのかな、」
「過度に心配しなくても大丈夫だと思う。 なんとなくだけどあの人は強い」
「ノエルもそう思う? あの眼の感じからしてかなり腕が立つわね、少なくともルーシーと互角なのは間違いないと思うわ」
それから私達は庁舎に顔を出したところ市長と関係者たちがそろって待っていた。
「みなさん、今回はこの街を守っていただき本当にありがとうございます。 街の者を代表してなにかお礼を言わせて頂きたい」
うっ、べつに私達だけの活躍じゃないのになんか恐縮しちゃうな。
市長にできるだけ丁寧に応対するとともにモニカに確認を取る。
「こちらこそ、兵士さんが協力してくれたおかげで私達も前線の防衛に専念できました。 皆で守り切った結果です。 それしてもなぜ普段は機能している結界が突破されたのか、それが腑に落ちません。 ねぇモニカ、警報が鳴った後街の中には変異した魔物っていた?」
「んー、街中は特に、いつも平原でよく見かける魔物さんだったよ?」
どういうこと? 私達が相手をした魔物は変異してたから侵入しても不思議じゃないけど、普通の魔物が街中にいたなんて、それに結界は特殊な魔物以外は寄せ付けないはずなのにどうして。。
「あの、どうかされましたか?」
「あっ、はい、実は結界について気になることが..後で司祭様とお話をさせていただきたいです。
まさかであってほしいが、聞くだけ聞いてみよう。 それで何事も無ければそれでいい。
「原因究明まで協力してくださるのですか? なにからなにまでなんとお礼を言っていいか」
「いえいえ気になさらないでください、私達も日頃お世話になっている街ですから」
こうして私達は司祭様の元へ通された。ロカムの聖堂もなかなかに厳かな雰囲気だったがここルーディは建物の大きさや神聖さも段違いだ。 各町、地域から観光客が集中するだけはある。
小柄な女性の司祭様は私達の姿を確認するとお礼の言葉を口にされた。『早速ですが』と私はモニカから聞き得た情報も交え結界がなぜ機能しなかったか、陣に変化はなかったかを尋ねたらところ、全く予想だにしてない答えが返ってきた。
「実は陣の前に見慣れない女性がいまして、どうしたのかと声をかけたら『いえ、なんでも』と言い残し去ってしまったんです。 去り際に『二つ目、か』と呟いてましたが‥まさかと思いまして。
司祭様の言葉に私は『どんな方でした?』と問うとさっきすれ違った例の女性と特徴が合致していた。 これに対し私より先にモニカが先に反応を示す。
「それ、多分さっきモニ達がすれ違ったのと同じ人だよっ。 そんな悪いことする人には見えなかったのに‥‥」
モニカはショックだろうが、今はどうするかが大事だ、私はエイミーに提案をする。
「エイミーどうする、追う? すれ違ったのが28分前、追いつけるかな?」
エイミーは数秒思案するもその首は横に振られた。
「ううん、20分以上も前じゃここから街の門まで更に7分はかかる。 今からだと追うのはもう難しいわ。 とりあえず帰って店長とルーシーに報告しましょ」
休暇に来たつもりが新たな事件のきっかけを掴んでしまった。 これが今後肥大しないといいが‥。
それから私達は司祭様とお互いお礼を言い合い街を後にしたが道中モニカは終始物悲しい顔で物語っていた。
「それにしても、なんかショックだなぁ、あのお姉ちゃん悪い人に見えなかったのに、逆に何か悲しみ抱えてそうに見えたのに..」
時折モニカから出る口振り、モニカは時に一瞬で他人の表情からその人の胸の内を見透かす素質を見せる、あの女性も望まず何かをしていたのだろうか。
いや、理由が何であれ人々の平穏を脅かしていいことにはならない。 もしも次対峙した時は当人の本心を聞く必要があるな。
しょげるモニカをエイミーがなだめていた。
「まぁまぁモニカ、あの人もなにか事情があったんだと思うよ? 今度どこかで会ったら聞いてみるといいんじゃないかな?」
今度かぁ、今回のがただの愉快犯でその〝今度〟が来ないといいんだけど‥‥。
「――なるほど、謎の女性が事件の全容のカギになってる可能性があるわけね、それはそれとして‥‥」
ルーシーはゆっくりと私達3人の前にスタスタと歩いてきた。 どうしたんだろと思うも次の瞬間、強烈なデコピンをされ3人して同じリアクションを取ってしまった。
「痛っっっったーーっ」
これは痛い、痛すぎるっ。 単に力を込めたデコピンじゃない、霊素を込めたそれだ。 私達は涙目になるもルーシーは構わず言い放つ。
「街を守ったことは立派だけど、あなた達が死んじゃったら意味ないじゃないのっ。 ゴルガみたいのがいるなら街の人に協力を仰げばいいしそれでも無理なら逃げてもいい、命があれば例え悩んだり困ってもまた再起を果たせる。だけど死んじゃったらここまで繋いできた繋がりが永遠に消えてしまうのよ? もう無茶なことはしないで..
無事でよかった」
「ル、ルーシー?」
デコピンされてからのお説教から流れのまま私達3人はルーシーに抱き寄せられた。 ルーシーがここまで様々なことに厳しさや慈しみを見せるのって、彼女の過去にいったい何が‥
「ごめんねルーシー、心配かけて..一つ聞いてもいいかな?」
「いいわよノエルちゃん。どうしたの?」
その後私が『ルーシーって..』と言いかけたところで事務所の扉が開く音が背後から聞こえた。
「ただいま、あぁモニカ君任務お疲れ様。 ノエル君とエイミー君は休暇なのに帰るの早くないかい?」
店長、どこ行ってたんだろう..それにそこの女性はいったい..
エイミーが『その方は』と問うとここに至る出来事を説明してくれた。
彼女の名はネイ・キーア、この後受けることになる任務の依頼主であると同時に、遠くない未来で私と記憶の手がかりを繋げてくれる方だ。