第11話 村人の死守..そして〜
11話
「あの、私も陣のとこに来ちゃってよかったの? 村のみんな攻撃してくるだろうから邪魔になるんじゃ..」
ネイさんは私達に気を遣っていたが家に1人残ってしまう方が懸念が残る。否定的にならない伝え方はないかと私はまごまごしていたらルーシーとモニカが上手く対応をしてくれた。
「いえ、ネイさんも一緒だと助かるわ。 目の届くとこにいてくれた方が守れるから、あなたの身になにかったら村の方を救えても意味がないもの」
「そうだよぉ。 縁した人みんなが笑顔、それがHEART・PROTECTIONだよ。ところでルー姉までこのまま参戦して大丈夫なの?」
「それなら問題ないわ。 今日の経理は終わったし、ミスティちゃんに助っ人お願いしといたから..あっそろそろ」
月が間もなく垂直の位置に来る‥みんな待ってて、必ず助けるからっ。
ほんの数十分前、月が垂直の最高置に到達したのが合図かの様にアンデッドと化した村人は歩を進め始めた。
村人の爪と私達それぞれの武器がぶつかり合う金属音だけが辺りに響く。
ルーシーが囮役買ってくれてるけど、転移も無限にはできないだろうし..大丈夫かなぁ。
「ルーシー、なんとか持ちこたえられそう? 無茶はしないようにねっ」
「平気よ。 私のことはいいから、無事に村人の誘導をっ」
私達は今アンデッドと化した村人を人に戻すため修正した陣の発動範囲内へ彼らを傷一つつけることなく誘導を試みている。
「こっちはゴーレムちゃんのおかげでかなり捌けたよ。 ノエル姉にミー姉、そっち村の人はまだ陣の外にいるよね? ネイ姉ちゃん守りつつ向かうよ」
モニカの周辺の村人は上手く収まったみたい。 私はエイミーの援護に向かうように促す。 あまり長期戦にはできない。アンデッドの爪は長さがある、攻撃を受け流せてもルーシーの槍と爪のリーチの差から頬や肩、背後に脚と防戦の時間が延びるほど状況は不利に、ダメージは蓄積される。
「モニカ、エイミーと協力して村人を押し続けて、できるだけ均等に」
「え? ノエル姉はどうするの?」
「私はルーシーと村人の攻撃を受け流す。 できるだけ分散させて負担を減らすね。 風素付随、飛脚」
私は力を込め、ルーシーのいる陣まで村人を押しのけて一気に駆け抜けた。 ルーシーに叱られるも私は意に介さなかった。
「っ! ノエルちゃんっ、なんで来たの? こんな危険な役は私だけでいいわっ」
「危険だからだよっ。ルーシーもう肩も脚も傷だらけじゃない。背中は任せてっ、守られてばかりの妹分はそろそろ卒業しなきゃね」
「ノエルちゃん..そうね。任せたわよ 相棒ちゃん」
村人が更に押し寄せてる、それだけ順調に事が進んでるに違いない。 私は勢いに任せて眼前の村人が繰り出す爪に刃を当てがった。
ルーシーの背に立ちつつも密着はせず、前に踏み出して弾かなきゃ、私を通過して爪がルーシーに刺さりかねない。
「ノエルちゃん、弾いたら合わせて放射状に動いて、切り傷にならなければ必要であれば蹴りとかの体術を使ってもいいわ」
「そうだね、それじゃ、村のどなたかわかりませんが..ごめんなさぁい!」
私は村人の爪を弾いたのと同時に蹴りを突き出し距離を測った。この村は場所的に診療所もなければ薬屋さんもない、もし裂傷など起こしてから人に戻った日には傷口からの化膿や破傷風を起こしシエストの病院まで持ちそうにない。
「ルーシー、このままじゃジリ貧だから使うね、英霊術」
「大丈夫なの? 術なんて使ったら村人が..」
「まぁ見ててっ。風素付随、エアル」
詠唱を終えると私とルーシーの足元を中心に強力な風が巻き起こる。
「すごい。ノエルちゃん、この風は霊素で操ってるの?」
「まぁね、私の意識で強度のコントロールしてるから言っちゃえば私の霊素がある内に決着つけなきゃなんだけどね」
エアルの効果もあってか、村人たちは一定の距離からは近づいてきていない。 もうすこしこの調子でいけば、もう少しで..。
ん? 村人に近づいてる人影‥あの姿形からすると、まさかっ。
「ルーシーっ、サイラの方角に騎士らしき人影が、嫌な予感がする」
「それってネイさんの前で村人を斬ったっていう? わかった、そっちは任せてもいいかしら」
「もちろんっ。 なんの考えがあってか知らないけど絶対に止めなきゃ。 ルーシーっ、座標転移っ」
移動した先では今にも村人へ剣身が振り下ろされようとしていた。 私は一瞬だけ剣を持つ手に加速をかけ剣を弾き返す。
男は一瞬よろけるもすぐさま体勢を立て直した。
「待ってください! そのアンデッドは魔物じゃありませんっ。 この方たちは村人なんですっ」
私の訴えに騎士の男は理解をした上で淡々と口上を述べ始めた。
「そんなことは知ってる、だがこの者たちはもう戻らない。 可能性があるのならそれを私に示せ」
「可能性ならありますっ、向こうの陣、そこで術式が発動すれば皆もとに戻るはずなんですっ」
私がその可能性を言うと彼は虚を突かれたかのように黙りこくった。 納得いってない? どうして?
「あの、陣についてなにか知ってるんですか? それとも、彼女についてなにか知ってるんですか?
直後男は核心を突かれたのか、口元を歪ませ信じられない言葉を発した。
「ヤツめ、しくじったか。 ルーディでは目立つなとあれ程..」
男の言葉を理解した私は怒りを噛み殺し、皮肉交じりに問いを投げた。
「あれぇ、おかしいですね? 私は一言もルーディとは言ってませんよ? ここの陣を書き換えたのはあなたですね? いったいどういうつもりですか?」
目的を問うも男は『迫害されし者の為、蹂躙者達に絶望を』とだけ言い放つ。 言葉の意味の理解はできなかったが怒りを抑えきれなくなった私は力任せに男に斬りかかった。
「ふざけないでっ! あなた達がどんな目的があって動いてるのか知らないけど、自分の望みの為に他人を犠牲にしていい道理なんて、ある訳がない!」
当たらない‥なんで? この人ほとんど動いてないのに、くっ、まだっ。
私は手にした短剣に風素を込め高速の突きを繰り返すも、糸も容易くかわされる。
(どういうこと? この風素はその道の太刀筋より遥かに速い..なのになぜ?)
「踏み込みはよし、間合いの取り方も悪くない、しかし経験不足‥」
男は淡々と私の剣捌きを分析しつつ重みのある蹴りを放った。 鈍い痛みがする。
「高い挑戦量になったな‥悪く思ってくれるな。 同胞の未来のためだ」
ここまで..なの? 約束したのに..。
男は一言呟くと長剣を高く振り上げ今まさに振り下ろそうとしていた時だった。 男は右手を庇いながら体制を崩したのと同時にその声は私の後方から響いてきた。
「どんなに上手く避けれても意識外の攻撃は対処できないみたいねっ」
「エッ、エイミーっ?」
「今よっ、ネイさんと村人の思いぶつけてやりなさいっ」
眼が眩むほどの光が強い思いと同時に起こり、男が『むぅ』と動きが止まった瞬間を見逃さなかった。
(両利きの可能性もあり得る‥ならっ)
「そこだあぁぁっ」
左手を捉えたその一撃が決定打となり男の両手は損傷、間もなくエイミーが心配しに駆け付けてくれた。
「ノエルっ、大丈夫? こいつが村人を..」
エイミーが弓を構えようとするも男は『その力は、あの方の、まさか貴様も..』とうずくまったままの状態で座標
転移に似た陣を展開させそのまま消えてしまった。
それにしても、私の力って? それにあの方って誰?
「ェル‥ノエルっ、ルーシー達のとこ戻ろ? まだ終わってないわよっ」
そうだ、ネイさんとの約束はまだ完遂してないんだっ。
「ただいまルーシー、今どんな状況?」
「たった今全員効果の範囲内に収まったとこよ。待ってて、もう間もなく..」
ルーシーがそう告げると陣から真っ白な光が舞い上がった。 私は祈るように眼を閉じ手を結んだ。
お願い、奇跡でも偶然でもいい。みんなを助けて。
何十秒経過したか、あちこちから『えっ、夜?』『私達なにしてたの?』といった村人らしき声が聞こえ、ハッと思い周囲を見回すと笑顔で涙を流してるネイさんの姿がそこにあった。
「っぐ..えっ..」
「あら、ネイお帰り、泣いてるの? 仕事、辛いことでもあった?」
ご両親から心配されるも彼女は懸命に嗚咽を噛み殺しうれし涙を浮かべて答えた。
「ちがっ..そんなこと..っない! 母..さん..父さ..ん....ただいまっ」
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村の方は助けられた。でもルピナさんがのことを悔やまずにいられない..
ボーっとしていたら頬に冷たい感触が伝わり『ヒャッ』と思わず声が出てしまった。
何事かと思い振り返るとカップを二つ持ったネイさんがそこにいた。
『どうしたんですか?』と慌て気味に答えると彼女は私にカップを渡しながら横に腰をかけた。
「いやね、せっかくみんな助かったのに浮かない表情していたから..あなたのことでしょうから『ルピナのことも』なんて気にしてるのかなって思ってね」
「そんなの..気にしないわけないじゃないですか。 私としてはルピナさん含めてパスティのみんなですから。
私は、この村の全員を助けたかったんです」
わずかな沈黙の後、ネイさんは飲み物を一気に飲み干しながら凛とした口調で答えた。 それはピオスにいた時のような弱り切ってる姿はもうなく、なにかを吹っ切った意志の強さが込もったように。
「あなた私に言ってくれたわよね? 『手の届く範囲は全て救いたい』って
「はい..言いました。 でも..でもできながっだあぁ」
ダメだ、涙が止まらない。ネイさんの方が辛かったろうに、これじゃどっちが依頼者かわからないや。 必死で涙を噛み殺していたら目の前に夫婦らしき男女が姿を見せ、奥さんらしき方がなだめるように私を諭してきた。
「ノエルさん‥でしたね? ルピナが亡くなった時は私達やあの子を救う術を知る者はいなかった。その時点であの子はあなたの救える手から零れてしまった。 それは..誰のせいでもない..です。それでもネイちゃんから聞きましたよ。
あなたはパティスの現状を知ってから必死に私達を助けようとしてくれたことを、まだ言えてませんでしたね。私達を、パティスを救ってくれて本当にありがとう」
ルピナさんのお母さんの言葉で私の中の何かが切れたのか、私は人目をはばからずに泣いてしまった。
「それじゃネイさん、考古学の研究無理せず頑張くださいね。 上手く休みつつ頑張るというかなんというか」
私のしどろもどろな言葉にモニカが『言葉使いが変だよ?』と呆れて返すのを見ながらネイさんは困った面持ちで問いかけた
「あの、本当にいいの? まだちゃんとまともにお礼もできていないのに..」釈然としない面持ちのネイさんにエイミーが『気にしないで』と笑顔で振り返った。
「パティスのみんなも数時間前まで大変だった訳だからそんな状況で報酬欲しがるほどHEART・PROTECTIONは人でなしじゃないわよ。
みんなの笑顔を守れた、それだって報酬の一つなんだから」
ネイさんはそれでも納得がいかないのか、私の前へ歩み寄ると彼女は自身の胸に手を当て、芽生えた思いを宣言をした。
「ノエルさん、あなたが取り戻したいものは私の研究と関連してそうかしら? もしそうなら今後協力させてほしいわ」
え..その好意は確かにありがたい、けどネイさんの時間の都合もあるし..。
私は返答を迷っていたが、彼女はそのまま話を続けた。
「まだ恩を返せてないというのもあるけど、あの騎士は彼はどこかでまたなにかしでかすに違いない。そしたらまた私達のような、ルピナのような人が出てしまうと思うの。
もうそんなことは起きてほしくないから、あなたに協力することが誰かを助けることに繋がる気がするの」
彼女が思いを伝えきるとルーシーがそれに続いた。
「そうね、せっかくの申し出なら受けておきましょ。 ノエルちゃんの件を協力してくれる過程であの騎士のことが同時にわかるかもしれないから、お願いしてもいいかしら?」
「もちろん、これからは協力者としてよろしく頼むわね」
ルーシーがの転移の準備終え、『ではまた』と言った直後見慣れた景色の場所に私達は立っていた。 着くなりモニカが思い切り背伸びをする。
「ん―任務完了っ 今回は報酬はなかったけど人助け出来て良かったぁ。 あっ、ミスティ姉ちゃんだ、おーい」
「あっ、モニちゃんおかえりー。 みんなも任務お疲れ様ね、今回は依頼どうだった?」
ミスティのほんわかした問いにルーシーが答えてくれた。 今の私が説明するにはルピナさんのこととかいろいろと辛い。
「パティスでアンデッドとなった村人を救ったわ。 依頼受ける前に亡くなった人を除いてね。 そのことでノエルちゃん参っちゃってて」
「そっかぁ、そんなことがあったんだねぇ」
ミスティはゆっくりと私の隣に来ると『よしよし』と頭を撫でてきた。
「ノエルちゃんは優しいんだよねぇ、大丈夫。 その人は依頼した方が忘れない限り生き続けるから、遠い未来できっとまた会えるから」
そうかな、そうだといいな。私もまた会えるかな..ん? 会うってなにと? 誰と..? なんでそんなこと今思ったの?
「ありがとう。 そうだといいね。そういえばミスティ、サイラの方面は最近どう? なにか変わったこととか」
直後ミスティが答えたサイラの便利屋の現状にHEART・PROTECTIONのみんなは顔を強張らせた。
「んー、この前ユーゼ君と任務に向かったら騎士の男性が軽装の女剣士に「目立つなよ」と言ってるのを見たよ? それにあの女剣士..うん」
騎士に剣士。やっぱりこれまでの出来事は繋がっていた。 それにしてもミスティ今の反応、女剣士について何か知ってるの? これは後でサイラに行く必要があるかな。