第9話 向き合うべき事実
さっきの黒いフードの人物が気になり寝付けないまま天井と睨めっこしてからもう3時間は経過している。
「ノエル、起きてる?」
「エイミー? 起きてるよ。 ごめん起こしちゃった?」
「あたしも寝付けなかったとこ。 ここじゃ2人が起きちゃうからバルコニーで話そうか」
誘われるがまま私はバルコニーに出た、もしかしてエイミーも私と同じこと思ってるの?
「いい風、いろいろあり過ぎたから頭冷えるわね。 ノエル、ネイさんの依頼の件とルーディの件どう思う? 特にロカムの件と今日の件で二日も事件が続いてる。 何か繋がってることは確かなのにどうにも煮え切らないものがあるのよね」
エイミーが言う煮え切らないもの、今回の依頼も含め3つの事件は自然発生なわけでは決してない。 でも確かにどこか不自然だ、いったい何が..各町や村周辺の生き物の変異、陣..もしかして。
「エイミー、気になったんだけどさ、ロカムの陣はどうなってたんだっけ? 見慣れない人の目撃情報とかってなかったっけ?」
「そ、そうよっ。 ルーディとパティスの事件の共通点が見慣れない人物の出没なら、なんでロカムでは〝それ〟がないの? それに陣は‥小さな村とはいえ人の住む地に最低限なくてはならないはず..」
エイミーにもさっき宿の前で目撃した例の件を、話してみようか、ここまでのこと考えると全くの無関係なわけがない気がする。
「エイミー聞いて、実は宿に入る前一瞬だけ怪しい人物が見えたよ、黒フードで顔なんてロクに見えなかったけど、次の瞬間にはもう見失っちゃってたから気のせいかと思って..」
そう告げるとエイミーは呆れたように『あのねぇ』と答えた。
「そういうのは早くいいなさい? 些細な情報だって集まれば大きな収穫になるんだから、それにしてもなんだろ、ノエルが言ってる黒フード、聞いた限りでしかないけどルーディで目撃したのとネイさんが遭遇した騎士の話からは伝わらない禍々しさを感じるわ」
私は明日にでも霊素での通信によってルーシーに情報を共有しようか聞くもエイミーは『まだいい』と言うかのように首を横に振る。
「やめておきましょ。通信だと外部から盗聴される危険性がある、パティスの件を解決したら直接報告する方がいいわ」
盗聴..シエストかピオスに霊波を辿ろうとする者がいる可能性に繋がる。 黒コートに女剣士、パティスの騎士はグルなのかな、なんにせよ油断はできないな。
ある程度の結論が出た所でエイミーは大きな口を空けてあくびをしていた。
「さて、もうひと眠りしましょ。 少しでも休んでおかないとこの後持たないわ」
ちょっと話し込んじゃったかな、もう夜が明けかけてる。
「そうだね。 依頼達成のコツは健康第一だもんね、おやすみー」
この青白さからして、退室まで6時間、実質あと3時間くらいしか寝れないなぁ。 寝不足ならないといいけど。
ここは、どこ? なんとなく夢の中というのは理解できた。 建物の中みたいだけど、登ってみよう。
思い切って上り始めたはいいけど、登れど登れど上には到達しない‥。
「それにしてもリアルな夢だな、いったいこの建物何階まであるの? 数えるの面倒になってきたな‥これじゃまるで塔っ‥塔? ここは夢で、塔の夢、もしかしてオブリヴ? わ、まぶしっ」
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目の前が眩しくなったのと同時に私の夢はそこで途切れた。
「さっきのはいったい、私から欠けてる記憶? わっ」
視線を正面に向けたらエイミーの顔がゼロ距離に、思わず声を張り上げてしまった。
「遅ぉいっ、もう退室2時間前よ? ほら、チャチャっと顔洗って朝ごはん行こっ」
そういえば昨夜はみんな疲れて夕飯なんて取らないで寝ちゃったんだっけ、私含めて全員お腹の虫がなってる、急いで支度しなきゃっ。
「ふぅ、寝起きだからかあまり朝は食べられないものだね」
あれからすぐ席についたが、寝不足な上起きてすぐじゃさすがに紅茶くらいしか喉通らないや。 それにしてもモニカ食べ過ぎ、よく朝からあんなにお代わりできるなぁ。これにはエイミーも軽く引いてる。
「モニカってばよく起き抜けでパン5枚も食べれるわね。 どういう食欲してるの?」
「いーの! だってモニ育ち盛りだもん」
「いや、あたしがモニカのだっ年齢だった頃もそんなに食べれなかったわよ。それにしてもネイさんごめんなさいね、朝食代出させちゃって」
朝食はネイさんが全額負担してくれた、私もエイミーも再三遠慮はしたのだけれど、押しに負けちゃって‥
「気にしないで。 みんなにはかなり負担のかかる依頼だからせめて朝食代くらいは上乗せ分として受け取ってくれると嬉しいわ」
本人がそれを望むならその好意ありがたく受けておこう。 せっかくの心遣いを無下にすることもないかな。
昨晩のエイミーとの会話の件に考えを巡らしつつ紅茶を味わっていると客と店員の会話が聞こえてきた。 どうやら今夜連れが来るとのことらしい、宿泊客らしき銀髪の男性は連れの分の夕食のプランを予約していた。
「すみません、今夜連れが来るのでこのプランBをお願いします」
「それでいいのですか? 持て成すのならプランAの方が喜ばれるかと」
店員がメニューの選択の提案をしたら男性は抑揚のない声で淡々と言い切った。
「いや、これでいい今日はプランBでなければならないんだ」
こだわりがあるのかな‥まぁどこにでもこういう感じの人はいるか。
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「ここが、パティス‥」
ネイさんを除き私達は村の光景に呆気に取られていた、日中だというのに人っ子一人いない、ネイさんはこの状況をどう思ってるのか、モニカならガルムを通して気付けるかも
「モニカ、お願いしてもいいかな? なんか嫌な予感がする」「正直言うとモニも、知っちゃいけないこと知りそうで..でもやってみるよ、オオカミちゃん頼むね」
程なくしてガルムがモニカのとこに戻ると『クゥーン』とどこか寂しげな鳴き声を上げていた
エイミーが『なにがあったの』と聞くとモニカはやりきれない表情で結果を話し始めその内容にネイさんは『どういうこと?』とキョトンとしていた。
「ネイお姉ちゃん、結果から話すけど..アンデッドは多分、村の人たちだと思う。
原因はわからないけど一夜で村人全員がアンデッドになっちゃったみたい‥」
「えっ? 待って、言ってることが理解できないんだけど..じゃあここのアンデッドは村のみんなで騎士の方が斬ったそれは..」
理解が追いついたとこでネイさんはこちらに振り向きもせず走り去ってしまった。
今は一人にしちゃいけない。衝動に駆られた私達はネイさんの後を追うが辿り着いた場所で彼女はアンデッドの屍の前で私に尋ねた。
「ノエルさん、このアンデッドの遺体、修復できる?」
私は『辛い結果になると思います』と忠告をするも彼女は事実を求めた為、私は屍にレイズをかけた。
その姿は見る見る間に変化し、息絶えてはいるが、それでも尚清楚で美しい女性の遺体へと変化した..というより戻った。
「ルピナ、嘘..よね、だって村を発つ時まだあんな元気に手振ってくれてたじゃない。嘘よ..目明けて、目あけてよ!」
ポツポツと降り出した雨はやがて誰の話し声も聞こえない程の豪雨となり私達に降り注ぐが、今はそれでいい。
地面を叩く音だけが彼女の叫びを搔き消してくれた。
今はただ気の済むまで泣かせてあげよう。空もきっと彼女と同じように嘆いているに違いない。