第8話 悲嘆の学者と廃村の謎
故郷に帰ったら村人がいなくなって同時期に夜な夜なアンデッドが?」
私の反応に沈みがちに話を返してきてる薄めの緑のショートヘアの彼女はネイ・キーア、今しがた店長が連れてきた依頼者でシエストで考古学の研究を生業としている。
「えぇ、この間久しぶりに故郷の〝パティス〟に帰ったところ両親含めて村人全員の行方がなくなってて、不安ではあったけどその日は疲れて眠り目覚めた晩には村中あちこちでアンデッドが徘徊してたわ。 私は襲われそうになったのだけど偶然居合わせた騎士の方に助けらたわ」
「おかしい‥なぜこんなことに、私はそう感じたままこの件を解決してくれるところを探しにサイラという町の便利屋で依頼をしたところHEART・PROTECTIONの紹介をしてもらったの‥。お願いです、この不可解過ぎる出来事を解決していただきたいです」
ネイさんの依頼のおおよそは把握した。 消失した村人に夜な夜な現れるアンデッド、見慣れない騎士..まさかっ
「あの、ネイさん、村の結界の陣はどうなっていましたか? 私の憶測が間違ってないとすると..」
エイミーは察した様子でルーディの出来事を話した。
「それって、内容的にはルーディですれ違った陣を破壊した疑いのある女剣士とほぼ同じじゃないっ、それが同時期に? ルーシー、どう思う?」
「えぇ、私は話を聞きかじったに過ぎないけど、似た事件が起き始めいてるのなら看過できない事態ね。店長、どうする?」
「そうだな。 それなら今回はノエル君とエイミー君、それからモニカ君でパティスに向かってもらいそこで昼間はネイさんに従い依頼の遂行に当たってもらいたい」
モニカが来てくれるのはありがたいな。 今回の相手はアンデッド‥数の暴力もあり得るし、そうなったらいくらルーシーの腕が立つとはいえ座標転移対多数には相性が悪い、仮にルーシーを呼ぶとしたら陣の修復の必要性がもしあったら来てもらうかも..。
パティスまでは4日間かかる。 シエストを通り越してアーシェスを迂回した先の小さな村が今回の目的地となってる。
「それではネイさん行きましょう。 焦る気持ちはわからなくないですけど、4日の道中は長いですから気長に行きましょう」
「大丈夫よ。 待つ人なんて今は誰もいないからなにも急ぐことなんてないわ‥」
どうしよう、こんな時どういう風に声かければ‥優しい言葉も時には凶器になりえる‥どの言葉が彼女の心に寄り添えるのか、ダメだ。 私には気の利く言葉が見当たらない。
言葉を詰まらせる中エイミーの声が静寂を破った。
「そういえばさ。途中シエストに立ち寄って調べてほしいことがあるからネイさん頼めるかな? 近況の事件のこととか、最近あたしたちの身の回りおかしなことが多いじゃない? ネイさんの困ってることとあたしらが受けた依頼って何か裏で繋がってるのかも、それにここからシエストまでだって2日はかかるわけだからルーシーに転送してもらおうよ? ね? ルーシー?」
「簡単に言ってくれちゃってぇ、自分以外の人を正確な場所に転送するのってかなり大変なのよ? エイミーちゃん今回は貸しね?」
「じゃあ出世返しってことで、いいよね、ルーシーお姉さま?」
『まったくぅ』と言いつつも笑顔で協力してくれてる。
私もルーシーの面倒見の良さには甘えっぱなしだから一日でも早く頼れる後輩兼妹分にならないと。
初めての座標転移にネイさんは戸惑うがモニカが上手にフォローしてくれてるからなんとかなりそう、転送する側とされる側の両者が精神バランスの安定がなければこの術は成功しないこの方法はいわば共同作業に等しい。
「え、なにこれ、なにが起こるの? なんか不安」
「だいじょぶだよネイ姉ちゃん、ルー姉がいればシエストまでならあっという間なんだから」
ルーシーが『いってらっしゃい』と言うと私達の視界はほんの一瞬真っ白になった。
「え? もう着いたの? 本当にあっという間ね」
ネイさんは初の転移術にすごいというより呆気に取られている様子だった。
確かルーシーの英霊術って失われし力、〝ロストアーツ〟の一種だとか、その上簡易的な陣の書き換えもできるとか
あのお姉さん何者なんだろ。
エイミーは早速といった様子で知識の館での調べごとをネイさんとモニカにお願いした。
「じゃあ2人共お願いしてもいいかな? その間あたしとノエルで宿の手配と道具の買い足しに行ってくるから」
「えぇ。どの程度まで調べられるかわからないけど館内の書物一通り見てみるわね」
「うぅ、モニ難しいの苦手だけどできるだけがんばる」
「それじゃノエル行こっか」
ある程度館から離れてからネイさんへのピオスでの対応にについて話してみた。
「ほんとエイミーってばいざという場面でいつも機転が利いてすごいなぁ。
私は『なんとか気の利いたこと言わなきゃ』ってオロオロとしかできなかったよ」
「気を利かせたつもりなんて全然ないわよ? ただ上手く違う話題で気を逸らしただけ」
私が感心してるのをよそにエイミーはケロっとした様子で言い私は『えぇ?』と戸惑ってしまった。
「いいノエル? 心の扉を閉じてる人に寄り添う言葉をかけてあげるのはもちろん優しさ、けどあえて〝なにも言わない優しさ〟もあたしはあると思うんだ」
「言わない..優しさ?」
「そう。人によっては辛い時に寄り添われるのさえ『何も知らないくせに..』と疑念を持つ人だっている。
だからそんな時はあえて〝その件〟から逸らすのもアリだと思うの。例えば..モニカが元気ない時はお菓子の話を振るとか」
例えのダシにモニカかぁ。うん、わかりやすいし眼をキラキラさせるのが容易に想像できる光景に吹き出してしまった。
「ぷっ、例えがわかりやすい。 でもモニカが聞いたら怒るよ? 『モニはそんな食べ物で釣られるほど子供じゃないもんっ』とか言いそう」
「それも両手ぐるぐるしながらよね? さすが我が社のマスコット。 さて、早いとこ用事済まして戻らないと。2人を待たせちゃうわね。急ご」
――シエストの雑貨屋ってこんな感じかぁ、さすが考古学の都市だけあって探索用の道具がそろってる。
座標転移石は高価ながら危険地帯から一瞬で帰還するのに多くの探究者から重宝されてる、
まぁそんな高価な保険使うなら危険に踏み入るなって話ではあるけどね。でもそんな命知らずがいなければ今日までのあらゆる危機への想定や対策は為されず、人々はうろたえるばかりであったかもしれない。
店内に入ると女将さんが『ふむ』と呟いた。
「お嬢ちゃん達も探究者かい? 女性の客さんが日に何人も来るの珍しいね」
お嬢ちゃん達〝も〟? そんなに女性が来るのは珍しいのかな。
「いえ、私達は便利屋で依頼を受けてピオスから..あまり女性の方が来られることって少ないんですね」
「まぁねぇ、今日はまだ早い時間だったけど赤髪の女性のお客さんが来たかね。
『あなたは自分を誇れますか?』って聞かれたけど、どうしたのかしらあの子」
「そ、そうだったんですね‥それじゃとりあえず聖水と麻痺治しを15個ずつと‥」
(店出たらエイミーと会議かな、実害は今はないみたい)
店を出てから館に向かう道中、度々視線を感じる‥なんだろう、落ち着かないな。
「ねぇエイミーどう思う? 早い時間に来たっていう探索者の話」
「どう考えてもルーディの剣士ね。 あの一件の容疑の疑惑とはまた正反対の発言ね」
自分を誇れるか..やっぱりあの剣士は何か深い事情があるのかな。いや、加担していたかどうかもまだ断定はできないからもっと深堀りして追わないといけないのかも..。
知識の館に帰るとネイさんの前には書物の束が、これ全て読んだのかな?
「あらおかえりなさい。 あれからいろいろ調べてみたらロカム村のことで一つ判明したことがあるわ、なんでも今より遥か昔の生贄の一つで死人を呼び戻すのに村の中から数人と外の村から数人を用意して呼び起こす儀式があったのだとか..でもこの時代にそんな非化学的なことする必要あるのかしら?」
てことは私何かを召喚するための生贄になりかけたってこと? 私生贄にされかけるの多過ぎない? お祓いでも受けておこうかなぁ。
「あ、ノエ..にミー..ぉかぇりぃ~。れきし..むずか..」
ネイさんはモニカを背負いながら『モニちゃんもおねむだし、もう休みましょうか?』と提案する。私とエイミーも情報を整理したかったからモニカを連れながら宿まであとわずかの距離に来た時だった。
(え? 一瞬路地裏に..誰?)
「エル..ノエルっ? どしたー。置いてっちゃうよ?」
「あっ、ごめん今行くー」
(あの人影なんだったんだろ)