第4話 残されし謎・たまの休日は妹分と共に
事件はなんとか解決されたけどいろいろと謎が残る。
村長さんの凶暴化と近年世界各地に溢れてる魔物はどちらも状況が似ている。 そしてなぜ私達が初めて村に来た時点で村長さんの中に憑依してる者は牙を向かなかったのか、気になることが余りにも多いため村の書庫の中をしばらく調べさせてもらった。
「ねぇノエルこの陣、オブリヴとアーシェスを示す旗にも似た陣が描かれてる」
「本当だっ、違う街なのにほとんど似てる、ルーシー、これってどういうこと?」
「ごめんねノエルちゃん、これは私もよくわからないわ。 結論を出すには情報が足らなくて‥また何らかの機会が来たら調べるのがいいかもしれないわ」
これ以上はめぼしい情報はないか。考えてみると今回の事件は古来からの逸話とかでもなく突発的に発生した事件だから仕方ない。メモだけでもして後で時間が空いたら整理しよう。
「それじゃ私達は帰りますね。 村長さん怪我、すみません..」
「いやいやそんな、ワシや子供たちを救ってくれたんじゃ、むしろなんと感謝の言葉を言えばいいか‥そうじゃ」
村長さんが自室から鮮やかな青色の宝玉を持ってきてそれを渡してきた。 これって‥。
「物を渡せば済む話じゃないのは重々分かっておる。 だが事件の張本人として詫びと礼をさせてほしい、ピオスでなら今なら時価20万ファムにはなるじゃろう。
に! 20万ファム? 今回の依頼で受けた金額の57倍!? いくら感謝とはいえ金額が法外すぎる。 ルーシーなんて口パクパクのお魚さん化してるよ。
「そ、そそそんな、ダメですよ村長さん。 慎重に、慎っ重になさってください、20万‥20万ファムですよ? 私達HEART・PROTECTIONの人員1人につき10回受けた依頼の報酬を人数分合わせた金額ですよ? 大金なんですからどうか、どうかご計画的にっ」
ルーシーはもう長らく店長のお人好しの安請け合いに振り回されちゃってるからなぁ、なんか去年より金銭感覚シビアになってるような。
それはそうとルーシーの論じた金額の計算は1人頭1回の依頼で5000ファム、そんな懐事情話すとウチが貧乏だと誤解されちゃうよー..あっ、貧乏だった。
「もちろん計画的ですとも。 村の混乱を鎮めて下さったんじゃ、これでも安すぎるくらいじゃ‥重ね重ね言わせていただきたい、本当にありがとう」
「結局ロカムの騒動についてよくわからなかったわね。 陣とかも謎のままだし、ノエルちゃんはオブリヴであの陣は見覚えなかったの?」
「そうだね。 仮にあったとしても見たのは私が記憶にない時だろうから、あるとしたら塔の中でその塔も今は近寄れないからね」
そう、呪いのせいでオブリヴには疎か、家族とも会えなくなっている。 塔の記憶はないのになんか理不尽だ。私とルーシーが神妙な面持ちしているとエイミーが陣について言及した。
「でもさ、収穫なかったってことはないよね。 アーシェスにも似たものがあるということは似たものがどこかにあるかも、有史前は生贄ってある地域もそれなりにあったわけだからロカムの件と似たとこがどこかにあるのかも」
ロカムの件と似た生贄のような出来事、今はないにしても痕跡くらいは恐らく世界各地にはあるのだろう。 ということは村長さんの身に起きたようなケースは今回ですべて解決‥ではない?。
なににしても、『コノセカイに復讐ヲ』この言葉が不吉でならない。 なにごともないといいけど。
ルーシーは宝玉を抱えながら歩き労いの言葉をかけてくる。
「さぁて2人とも、臨時ボーナス入ったから休暇申請しなきゃね。 適正ランク以上の危険任務行かされたわけだからリフレッシュしなきゃ身が持たないでしょ? その間私は店長をこってりと搾っておくから」
帰還後に店長が青ざめた顔をしてる光景が頭に浮かぶ、ギルバートさんご愁傷鵜様。
ーー
「あのぉ、3人とも険しい目をしてどうしたのだろうか」
店長がうろたえてる。 そりゃそうだ、人選も受注額設定も適当過ぎるんだもん。
いつも怒ってるルーシーがいつにも増して店長に詰め寄った。
「店長、なんで私がこんな顔してるかわかるわよね?」
「ええと、こんな顔というのはお美しいお顔ということで..」
エイミーから即座に『誤魔化すの下手』と突っ込みを受ける、いろいろと鈍い私でも、うん、これは下手だ。
事務所内に机を『バンっ』と叩く大きな音が鳴り響いた。
「いい加減にしてくれる? 今回の件でノエルちゃんもエイミーちゃんも一歩間違えたら大袈裟してたかもしれないんだから、なにか埋め合わせの一つくらいなきゃ割に合わないわ」
確かに今回は命の危機を感じたわけだし、なにかしらの形で労ってほしいなと思っていたらルーシーが店長にロカムで話していたことを要求した。
「ということでノエルちゃんとエイミーちゃんに休暇と臨時ボーナスをあげなくちゃね」
ルーシーの提案にエイミーは小さな子供みたいにバンザイをしてはしゃいだ
「休暇? やったっ、何日? 10日はあるかな? ねぇノエル休暇使ってどこ行こうか」
私も久しぶりの休暇に期待をしたが、その期待も間もなく泡と化した。
「そうだなぁ、一週間の休暇はどうだ?」
店長の言葉にエイミーは絶句する。 もちろん私も絶句する。
「はっ? 短っ 収穫祭なら2週間休むとこだってあるわよっ?」
エイミーの言う通り、ピオスやロカムは漁獲際に収穫祭、食料に関する記念となる時期が存在する、これくらいの規模の街なら10日の休暇はザラだが‥。
「ウチは貧乏で人手不足なんだ。 これでも休暇としては多い方なんだからありがたく思ってくれ」
これだよもぉ。 あ‥店長の背後にルーシー..私は何も見てないっと。
「貧乏なのは店長が危険度の高い依頼とかを安価に安請け合いするからでしょう? だから報酬貰っても武具の手入れに傷の手当で毎回プラマイゼロ、むしろマイナスになってるんじゃないのっ! 」
「あたたたっ、待てルーシー君、暴力反対っ」
「まぁそういうわけで、ボーナスは弾んであげてもいいんじゃないかしら、ちょうど村長さんからいただいた宝玉もあるわけだからね」
「ま、待ったルーシー、このお金はウチの当面の資金‥」
「なんか言った?」
「いや、だからこれは当面の資金で私のポケットマネ‥」
「な・ん・か・言・っ・た?」
「な、なんでもありません。 ノエル君、エイミー君どうぞ、トホホ」
おぉぉ、やっぱり本気で凄んだルーシーは怖いや、怒られないように気を付けようっと 。
私とエイミーに臨時ボーナスと称したお小遣いをくれるもげんなり顔な店長、ルーシーと主従関係が逆転してるよ。もうルーシーが店長すればいいと思うなぁ。
「よぉしノエル、久しぶりの休暇だからルーディまで行こうか? ボーナスも多目にもらえたし」
「いいね行こ行こ、あそこのカフェ今だったら行けるかな、それじゃ準備して早速久しぶりの休暇を..あれ、店長どこ行くの?」
店長どさくさに脱走しようとしてる、いやいや、絶対ルーシーにバレるって。
「ギルバートさん? どこに行こうとしてるのかしらぁ? 労災にその他もろもろの書類の記入といった仕事が残ってるんだからこっちへ来なさい? それらが終わったらお説教よ?」
「ひ、ヒェー」
その後店長はルーシーに大量の書類とともに事務室へ連れてかれた、店長お大事に。
ルーディへはピオスからコルム平原を道なりに歩いて一時間と半分くらいで到着する。私はいつもながら店長が気がかりで歩きながらエイミーに話を振った。
「それにしても店長大丈夫かな? ルーシーいつになく青筋立ててたけど、なんか盛大に搾られそう」
「ありゃかなりお叱り受けてるだろうね。 なにせ日頃の安価での受注に今回のあたし達ランク外の依頼に向かうって事態が起こっちゃったからね、 不可抗力とはいえルーシーは厳しいからねぇ」
そう、ルーシーは約束事を疎かにすることを何よりも嫌う。 仕事回しはもちろんお金に関することも、過去に理由を聞いてみるも物悲しい顔ではぐらかされた。
「ルーシーの時折見せるあの思い詰めた表情はなんなんだろぅ」
「昔なにかあったのかもね、まぁ皆がみんなノエルみたいに過去のことを答えることについて平気ってわけじゃないからね、聞かれたくないことの1つや2つはあるわよ。 ちなみにあたしはフルオープンだからなんでも聞いてよね?」
エイミーのポジティブさにはいつも助けられてる、もしHEART・PROTECTIONにいた先輩がエイミーと真逆の人だったら今もオブリヴの人見知りの激しいノエル・イーシャのままだっただろう。
「それにしてもノエルこの5年でずいぶん明るくなったよわね、初対面のモジモジが今からすると嘘みたい」
「エイミーが人懐っこいおかげでこっちの緊張も和らぐんだよね、今後もよろしくね?」
「あいよっ」
着くなりエイミーは思い切り羽を伸ばさんばかりに背伸びをした。
業務の時は依頼主への応対の完璧さのシャキッと感からのギャップ、エイミーのメリハリのあるとこがなんか落ち着くな。
「いつ来てもこの街って人多いよね、不景気知らずって感じ」
ルーディはピオス、サイラ、シエスト3カ所の丁度通り道に位置する観光地だ。 考古学に鍛冶に漁業、様々な用訪れる人々が通過する場所となって、それが功を奏してか観光地としてうまく機能している。
街の名物『星のカーテン』は初夏の一定期間のみ見れる空一面を流れ星が覆いつくす現象が起こりこれのために訪れる観光客もいるくらいだ。
「あたしこの紅茶好きなんだよね。 茶葉しか使ってないのにどうやったらこんなに果物みたいな香りになるんだろ」
興味深くキラキラした眼で街1番のカフェの紅茶を見つめるエイミー、確かにここの紅茶は芳醇だが値が張る。
1杯1750ファムなんてたまの観光にしてもどんな富裕層がこんなに高いのを注文するのだろうか。
「確かにいい香りだねぇ、それだけになかなかの値段。 でも今日は臨時収入もあるから遠慮しないで済むね」
紅茶の香りと財布の暖かさにご機嫌になるもエイミーが現実を直視せざるを得ない一言を投下する。
「この機会逃したら次の休暇はいつになるかわからないからね、そうでなくてもあたしたちの日々は馬車馬だからさぁ」
「ちょっとエイミー、今のでその馬車馬な日々思い出しちゃったじゃない」
ツッコむ私とツボに入るエイミー、いつ振りだろう、ここまでお腹の底から笑ったのは。
次はどこ行こうかな、久しぶりに服を新調したいところではあるけど。
「ねぇエイミー、私達最近任務も非番も似たような服じゃない? 着分けなくて大丈夫かな?」
「そうしたいのは山々だけどねぇ、ウチみたいな地域密着型じゃ非番の日さえ急遽依頼発生ってのが実情ってとこよね..ん?」
私達の存在に気付いた一回り年下の子は元気よくテクテクと駆け寄ってきた。
「あっ、ノエル姉にミー姉。 偶然だねぇ今日は非番?」
「あっ、やっぱりモニカだ。 私達昨日ロカム村の事件の依頼の後向こうで一泊してから今朝帰ったばかりでね、店長から一週間休暇もらったんだよー」
モニカは私達より一回り年下でありながら召喚の英霊術を使うことができる。
この子の呼び出すゴーレムやオオカミ種のガルムには何度も助けられてる。 ルーシーとモニカはウチの柱と言っても過言ではない。
「ロカム村って3日前くらいから噂になってた幼児が行方意不明のっ!? 犯人も目的も不明ってのは新聞で見たけど、二人共大丈夫だった? 」
モニカが驚いて心配をするもエイミーは親指を立ててキメポーズをしている。
「もちろん解決したわよ。 ノエルの霊素分配、ルーシーの座標転移からのあたしの弓術でかっこよくキメてきたわよ。
「そういえばミー姉。ルー姉は一緒じゃないの? 休暇なら一緒にリフレッシュに来てるかと思った」
「実はランク以上の依頼受けたことがルーシーにバレちゃって..」
「てことは店長はもしかして、もしかしてっ?」
モニカの質問にエイミーと全く同じタイミングで答えた。
「まぁその..お察しで」