第3話 聖堂での激戦・駆けつけた槍術士
「ノエルちゃん、3分で子供たち聖堂から逃がせそう? 守りながらだとそれ以上持たないかも」
「大丈夫、もしもの時はエイミーも援護お願いっ。 子供達逃がし次第私も戻るから」
私がお願いするとエイミーはグッと弓を構えた。
「オーケー。 ルーシー、急所に当たらないギリギリを狙うから隙ができたら後は頼むわね」
2人が交戦の間私は子供たちのとこへ駆け寄る。 『もう大丈夫だよ』と声をかけるとリックを始めニア、ヒューイ、他の子たちも我慢の糸が切れたのかワンワンと泣き始めた。
「うわーあぁぁ、怖かったよぉ。 村長さんが..村長さんがあぁぁ」
「突然聖堂に連れてかれたと思ったら変なもようから出られなくなって、でもなにされるかわからないから泣くの我慢してたの」
(普通の大人でさえ恐ろしく思う状況なのにこの子たちはすごく頑張ったんだろうな)
「よしよし、もう大丈夫だからね。 あのお姉さんたちが村長さん元に戻そうと頑張ってるから、その間にお姉さんと一緒に聖堂から出よ?」
リックたちが『うん』と頷くと私と子供は腰を低くし、行動入り口まで駆け抜けた。途中村長が追いつこうとするも、ルーシーが座標転移に間髪入れず村長を数メル先まで吹き飛ばす。
出入り口までは60メルある。 中腰で走るのはなかなかに堪えたがどうにか向こう側まで辿り着かなきゃ。
今まさに出口へ駆け抜けてる間にも村長はこちらに急接近し異形化した腕を振りかざそうとする。 なんとか間に合いルーシーが槍で弾く、その度に子供たちが怯えるも私はなだめる。
「マて、復讐ノ触バイ、ニガさんぞ」
「ふえっ、怖い、村長さん怖いよぉっ」
「大丈夫っ、このまま頑張って走れば出られるから、お姉ちゃんを信じて」
それから駆け抜けること15秒程、どうにか聖堂出入り口まで辿り着いた。
「ふぅ、なんとか出れたね。 みんなあとお家までは自分たちで戻れそう? 送ってあげたいけど、村長さん元に戻さなきゃいけないからさ、間違っても村の門からは出ないでね。怖い怪物がたくさんいるから」
村に戻れるよう釘を刺しはした。 不安な顔をしないか心配だったがリックが気丈に『大丈夫。 村長をお願い』と言いながら子供たちはそれぞれの家へ帰っていった。
「子供達なら逃がしてきたよ、2人共無事っ?」
どうやら村長のしぶとさに愚痴をこぼしてるようだった。
「まぁ無事っちゃ無事だけど‥」
「この村長さん、やたら硬いわね、なんでこんなに攻撃してるのにダメージ通らないのかしら、硬いしウニョウニョしてる腕なんてすぐ再生するし嫌んなっちゃう。 仕方ない、ノエルちゃん霊素あるかしら、アレやるわよ」
「了解、普通の方法じゃ無力化できそうにないもんね、エイミー、霊素分けるよ、準備いい?」
なんでかわからないけど、霊素分配できる体質でよかった。この体質のおかげで入社時から幾多もの危機を切り抜けてきた。 世の中何が幸いするかわからないものだね。
全霊素の6割を分配してエイミーの弓には無数の霊素の矢が充填された。
「相変わらずすごい量の霊素よね。 じゃあルーシー、タイミング合わせて頼むわね」
エイミーが弓を構え、駆けながら矢を放つ、同時に村長の異形と化した腕が飛び交う。『遅い!』と言いながらかわしたのと同時に次の矢を装填する。 そのまま接近しようとしたら先程の腕が戻ってきた。
素早く物陰に隠れながら撃っては反撃で机や椅子が1つ、2つと壊されていく。
だが霊素の矢のダメージは着実に蓄積され、そこが好機と見たエイミーは弓を構えながら村長に全力での接近を試みる、迫る腕などに臆してはいない。
ギリギリ頬をかすめた。 そしてゼロ距離まで来たところでルーシーに合図をかける。
「ルーシー、お願い!」
ルーシーが座標転移で村長を3・5メル、ルーシーを6メルの高さまで転移させると照準を村長の腕の付け根に合わせ弦を限界まで引き絞る。
「これで最後、村長さん、元に戻って‥行っけえええぇぇっ!」
うあっ、これ大型の魔物を撃ち抜くレベルの威力じゃ‥村長さん床に叩きつけられたよ? でもわずかに息はあるから大丈夫そう‥今のうちにっ。
「エイミー、ルーシー離れて! 善意蝕みし者よ、彼の者に憑きしその怨念冥府にて眠れ、レイズ!」
私は村長さんに呪いを解除する英霊術をかけた、『ぅうん』と少々うなされている、私は強く祈った。 暴れてたのは村長さんだろうけどこれが呪いか何かだとしたら村長さんだって被害者だ。
(お願い、目を覚まして)
それから私達は村長を自宅まで運んでから暴走しないかを見守っていた。見たところ異形化した部分は落ち着いている。
「あ、あなたたちは、ここは? 私はなにを‥」
それから村長に事の経緯を話した。 村のみんなは誰も村長を責めていなかったが、本人は自責の念に駆られている。 意識がないとはいえそんなことをしてしまったわけだから、私なら正気を保てそうにない。
「子供や保護者さんたちに本当に申し訳ないことをした。 わしはもうこの村に‥いや、生きてるのが申し訳ない‥いっそ山奥にこもって一人ひっそりと生きようか」
「ダメです、そんなのダメですっ」
思わず叫んでしまった。 でも、不慮のできごとで正気がなくなって村人から信用を失くしてしまうかもしれない、なんかそれがいたたまれなくなって叫ばずにはいられなかった。
私に続いてエイミーが説得にあたった。
「そうだよ村長さんっ、今回の件で子供達のことや保護者さんのこと色々あるけど、それでもこの村を維持してきたのは村長さんでみんなもそれを忘れてなんていないはず‥」
すると村長宅の扉が開いて、子供や保護者さんたちがやってきていた。
「リック‥ニア、みんな‥わしは、ワシは‥」
ワナワナと泣きそうな村長にリックが1番に近づいて慣れてるように話しかけていた。
「あっ、やっぱいつもの村長さんじゃん、聖堂でのあれはお化けが取り付いてたって本当だったんだね」
「ニアも信じてるよ。 村長さん怖い人なんかじゃないって」
「君たち‥保護者さんや‥」
「息子たちの言う通りですよ村長。 あなたは我が家が大変な時村中で明日の飯の工面をしてくれた恩を忘れてはいません」
リックのお父さんに続いてニアのお母さんも説得する。
「そうですよ。 ガルムが畑に侵入して困ってた時も人知れず柵を作ってくれていたのは村長さんですよね? 私も知ってますよ。 子供達も無事帰ってきましたのでこれからの対策を考えましょ?」
「み、みんな‥ありがとう‥ありがとう」
こうして今回の騒ぎはなんとか終息を見せた。 だがなぜ村長は正気をなくしていたのか、
あの陣はいったい‥私が色々考えを巡らせる横でエイミーが聖堂での疑問を投げかけた。
「そういえば村長の『コノセカイにふくしゅうを?』あれなんだったんだろうね」
「私もそれが引っかかってさ‥少し時間もらえるかな? ちょっと調べたいことが‥」