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体験や物語から伝えたい、正しく使えば言葉はすばらしいと

このブログは世知辛い現代を頑張る人に向けて役に立つ情報を僕なりの解釈で語るブログです

第11話 村人の死守..そして〜

11話

「あの、私も陣のとこに来ちゃってよかったの? 村のみんな攻撃してくるだろうから邪魔になるんじゃ..」

  ネイさんは私達に気を遣っていたが家に1人残ってしまう方が懸念が残る。否定的にならない伝え方はないかと私はまごまごしていたらルーシーとモニカが上手く対応をしてくれた。

「いえ、ネイさんも一緒だと助かるわ。 目の届くとこにいてくれた方が守れるから、あなたの身になにかったら村の方を救えても意味がないもの」

「そうだよぉ。 縁した人みんなが笑顔、それがHEART・PROTECTIONだよ。ところでルー姉までこのまま参戦して大丈夫なの?」

「それなら問題ないわ。 今日の経理は終わったし、ミスティちゃんに助っ人お願いしといたから..あっそろそろ」

 月が間もなく垂直の位置に来る‥みんな待ってて、必ず助けるからっ。

 

 ほんの数十分前、月が垂直の最高置に到達したのが合図かの様にアンデッドと化した村人は歩を進め始めた。

 村人の爪と私達それぞれの武器がぶつかり合う金属音だけが辺りに響く。

  ルーシーが囮役買ってくれてるけど、転移も無限にはできないだろうし..大丈夫かなぁ。

「ルーシー、なんとか持ちこたえられそう? 無茶はしないようにねっ」

「平気よ。 私のことはいいから、無事に村人の誘導をっ」

  私達は今アンデッドと化した村人を人に戻すため修正した陣の発動範囲内へ彼らを傷一つつけることなく誘導を試みている。

「こっちはゴーレムちゃんのおかげでかなり捌けたよ。 ノエル姉にミー姉、そっち村の人はまだ陣の外にいるよね? ネイ姉ちゃん守りつつ向かうよ」

 モニカの周辺の村人は上手く収まったみたい。 私はエイミーの援護に向かうように促す。 あまり長期戦にはできない。アンデッドの爪は長さがある、攻撃を受け流せてもルーシーの槍と爪のリーチの差から頬や肩、背後に脚と防戦の時間が延びるほど状況は不利に、ダメージは蓄積される。

「モニカ、エイミーと協力して村人を押し続けて、できるだけ均等に」

「え? ノエル姉はどうするの?」

「私はルーシーと村人の攻撃を受け流す。 できるだけ分散させて負担を減らすね。 風素付随、飛脚」

  私は力を込め、ルーシーのいる陣まで村人を押しのけて一気に駆け抜けた。 ルーシーに叱られるも私は意に介さなかった。

「っ! ノエルちゃんっ、なんで来たの? こんな危険な役は私だけでいいわっ」

「危険だからだよっ。ルーシーもう肩も脚も傷だらけじゃない。背中は任せてっ、守られてばかりの妹分はそろそろ卒業しなきゃね」

「ノエルちゃん..そうね。任せたわよ 相棒ちゃん」

 

 村人が更に押し寄せてる、それだけ順調に事が進んでるに違いない。 私は勢いに任せて眼前の村人が繰り出す爪に刃を当てがった。

  ルーシーの背に立ちつつも密着はせず、前に踏み出して弾かなきゃ、私を通過して爪がルーシーに刺さりかねない。

「ノエルちゃん、弾いたら合わせて放射状に動いて、切り傷にならなければ必要であれば蹴りとかの体術を使ってもいいわ」

「そうだね、それじゃ、村のどなたかわかりませんが..ごめんなさぁい!」

 私は村人の爪を弾いたのと同時に蹴りを突き出し距離を測った。この村は場所的に診療所もなければ薬屋さんもない、もし裂傷など起こしてから人に戻った日には傷口からの化膿や破傷風を起こしシエストの病院まで持ちそうにない。

「ルーシー、このままじゃジリ貧だから使うね、英霊術」

「大丈夫なの? 術なんて使ったら村人が..」

「まぁ見ててっ。風素付随、エアル」

  詠唱を終えると私とルーシーの足元を中心に強力な風が巻き起こる。

「すごい。ノエルちゃん、この風は霊素で操ってるの?」

「まぁね、私の意識で強度のコントロールしてるから言っちゃえば私の霊素がある内に決着つけなきゃなんだけどね」

  エアルの効果もあってか、村人たちは一定の距離からは近づいてきていない。 もうすこしこの調子でいけば、もう少しで..。

  ん? 村人に近づいてる人影‥あの姿形からすると、まさかっ。

「ルーシーっ、サイラの方角に騎士らしき人影が、嫌な予感がする」

「それってネイさんの前で村人を斬ったっていう? わかった、そっちは任せてもいいかしら」

「もちろんっ。 なんの考えがあってか知らないけど絶対に止めなきゃ。 ルーシーっ、座標転移っ」

  移動した先では今にも村人へ剣身が振り下ろされようとしていた。 私は一瞬だけ剣を持つ手に加速をかけ剣を弾き返す。

  男は一瞬よろけるもすぐさま体勢を立て直した。

「待ってください! そのアンデッドは魔物じゃありませんっ。 この方たちは村人なんですっ」

  私の訴えに騎士の男は理解をした上で淡々と口上を述べ始めた。

「そんなことは知ってる、だがこの者たちはもう戻らない。 可能性があるのならそれを私に示せ」

「可能性ならありますっ、向こうの陣、そこで術式が発動すれば皆もとに戻るはずなんですっ」

  私がその可能性を言うと彼は虚を突かれたかのように黙りこくった。 納得いってない? どうして?

「あの、陣についてなにか知ってるんですか? それとも、彼女についてなにか知ってるんですか?

  直後男は核心を突かれたのか、口元を歪ませ信じられない言葉を発した。

「ヤツめ、しくじったか。 ルーディでは目立つなとあれ程..」

  男の言葉を理解した私は怒りを噛み殺し、皮肉交じりに問いを投げた。

「あれぇ、おかしいですね? 私は一言もルーディとは言ってませんよ? ここの陣を書き換えたのはあなたですね? いったいどういうつもりですか?」

 目的を問うも男は『迫害されし者の為、蹂躙者達に絶望を』とだけ言い放つ。 言葉の意味の理解はできなかったが怒りを抑えきれなくなった私は力任せに男に斬りかかった。

「ふざけないでっ! あなた達がどんな目的があって動いてるのか知らないけど、自分の望みの為に他人を犠牲にしていい道理なんて、ある訳がない!」

  当たらない‥なんで? この人ほとんど動いてないのに、くっ、まだっ。

 私は手にした短剣に風素を込め高速の突きを繰り返すも、糸も容易くかわされる。

 (どういうこと? この風素はその道の太刀筋より遥かに速い..なのになぜ?)

「踏み込みはよし、間合いの取り方も悪くない、しかし経験不足‥」

  男は淡々と私の剣捌きを分析しつつ重みのある蹴りを放った。 鈍い痛みがする。

「高い挑戦量になったな‥悪く思ってくれるな。 同胞の未来のためだ」

 ここまで..なの? 約束したのに..。

  男は一言呟くと長剣を高く振り上げ今まさに振り下ろそうとしていた時だった。 男は右手を庇いながら体制を崩したのと同時にその声は私の後方から響いてきた。

「どんなに上手く避けれても意識外の攻撃は対処できないみたいねっ」

「エッ、エイミーっ?」

「今よっ、ネイさんと村人の思いぶつけてやりなさいっ」

  眼が眩むほどの光が強い思いと同時に起こり、男が『むぅ』と動きが止まった瞬間を見逃さなかった。

 (両利きの可能性もあり得る‥ならっ)

「そこだあぁぁっ」

  左手を捉えたその一撃が決定打となり男の両手は損傷、間もなくエイミーが心配しに駆け付けてくれた。

「ノエルっ、大丈夫? こいつが村人を..」

  エイミーが弓を構えようとするも男は『その力は、あの方の、まさか貴様も..』とうずくまったままの状態で座標

 転移に似た陣を展開させそのまま消えてしまった。

 それにしても、私の力って? それにあの方って誰?

「ェル‥ノエルっ、ルーシー達のとこ戻ろ? まだ終わってないわよっ」

  そうだ、ネイさんとの約束はまだ完遂してないんだっ。

「ただいまルーシー、今どんな状況?」

「たった今全員効果の範囲内に収まったとこよ。待ってて、もう間もなく..」

  ルーシーがそう告げると陣から真っ白な光が舞い上がった。 私は祈るように眼を閉じ手を結んだ。

 お願い、奇跡でも偶然でもいい。みんなを助けて。

 

 何十秒経過したか、あちこちから『えっ、夜?』『私達なにしてたの?』といった村人らしき声が聞こえ、ハッと思い周囲を見回すと笑顔で涙を流してるネイさんの姿がそこにあった。

「っぐ..えっ..」

「あら、ネイお帰り、泣いてるの? 仕事、辛いことでもあった?」

  ご両親から心配されるも彼女は懸命に嗚咽を噛み殺しうれし涙を浮かべて答えた。

「ちがっ..そんなこと..っない! 母..さん..父さ..ん....ただいまっ」

 ----

 村の方は助けられた。でもルピナさんがのことを悔やまずにいられない..

 ボーっとしていたら頬に冷たい感触が伝わり『ヒャッ』と思わず声が出てしまった。

 何事かと思い振り返るとカップを二つ持ったネイさんがそこにいた。

『どうしたんですか?』と慌て気味に答えると彼女は私にカップを渡しながら横に腰をかけた。

「いやね、せっかくみんな助かったのに浮かない表情していたから..あなたのことでしょうから『ルピナのことも』なんて気にしてるのかなって思ってね」

「そんなの..気にしないわけないじゃないですか。 私としてはルピナさん含めてパスティのみんなですから。

 私は、この村の全員を助けたかったんです」

  わずかな沈黙の後、ネイさんは飲み物を一気に飲み干しながら凛とした口調で答えた。 それはピオスにいた時のような弱り切ってる姿はもうなく、なにかを吹っ切った意志の強さが込もったように。

「あなた私に言ってくれたわよね? 『手の届く範囲は全て救いたい』って

「はい..言いました。 でも..でもできながっだあぁ」

  ダメだ、涙が止まらない。ネイさんの方が辛かったろうに、これじゃどっちが依頼者かわからないや。 必死で涙を噛み殺していたら目の前に夫婦らしき男女が姿を見せ、奥さんらしき方がなだめるように私を諭してきた。

「ノエルさん‥でしたね? ルピナが亡くなった時は私達やあの子を救う術を知る者はいなかった。その時点であの子はあなたの救える手から零れてしまった。 それは..誰のせいでもない..です。それでもネイちゃんから聞きましたよ。

 あなたはパティスの現状を知ってから必死に私達を助けようとしてくれたことを、まだ言えてませんでしたね。私達を、パティスを救ってくれて本当にありがとう」

 

 ルピナさんのお母さんの言葉で私の中の何かが切れたのか、私は人目をはばからずに泣いてしまった。

「それじゃネイさん、考古学の研究無理せず頑張くださいね。 上手く休みつつ頑張るというかなんというか」

 私のしどろもどろな言葉にモニカが『言葉使いが変だよ?』と呆れて返すのを見ながらネイさんは困った面持ちで問いかけた

「あの、本当にいいの? まだちゃんとまともにお礼もできていないのに..」釈然としない面持ちのネイさんにエイミーが『気にしないで』と笑顔で振り返った。

「パティスのみんなも数時間前まで大変だった訳だからそんな状況で報酬欲しがるほどHEART・PROTECTIONは人でなしじゃないわよ。

 みんなの笑顔を守れた、それだって報酬の一つなんだから」

 ネイさんはそれでも納得がいかないのか、私の前へ歩み寄ると彼女は自身の胸に手を当て、芽生えた思いを宣言をした。

「ノエルさん、あなたが取り戻したいものは私の研究と関連してそうかしら? もしそうなら今後協力させてほしいわ」

  え..その好意は確かにありがたい、けどネイさんの時間の都合もあるし..。

 私は返答を迷っていたが、彼女はそのまま話を続けた。

「まだ恩を返せてないというのもあるけど、あの騎士は彼はどこかでまたなにかしでかすに違いない。そしたらまた私達のような、ルピナのような人が出てしまうと思うの。

 もうそんなことは起きてほしくないから、あなたに協力することが誰かを助けることに繋がる気がするの」

  彼女が思いを伝えきるとルーシーがそれに続いた。

「そうね、せっかくの申し出なら受けておきましょ。 ノエルちゃんの件を協力してくれる過程であの騎士のことが同時にわかるかもしれないから、お願いしてもいいかしら?」

「もちろん、これからは協力者としてよろしく頼むわね」

  ルーシーがの転移の準備終え、『ではまた』と言った直後見慣れた景色の場所に私達は立っていた。 着くなりモニカが思い切り背伸びをする。

「ん―任務完了っ 今回は報酬はなかったけど人助け出来て良かったぁ。 あっ、ミスティ姉ちゃんだ、おーい」

「あっ、モニちゃんおかえりー。 みんなも任務お疲れ様ね、今回は依頼どうだった?」

  ミスティのほんわかした問いにルーシーが答えてくれた。 今の私が説明するにはルピナさんのこととかいろいろと辛い。

「パティスでアンデッドとなった村人を救ったわ。 依頼受ける前に亡くなった人を除いてね。 そのことでノエルちゃん参っちゃってて」

「そっかぁ、そんなことがあったんだねぇ」

 

 ミスティはゆっくりと私の隣に来ると『よしよし』と頭を撫でてきた。

「ノエルちゃんは優しいんだよねぇ、大丈夫。 その人は依頼した方が忘れない限り生き続けるから、遠い未来できっとまた会えるから」

 そうかな、そうだといいな。私もまた会えるかな..ん? 会うってなにと? 誰と..? なんでそんなこと今思ったの?

「ありがとう。 そうだといいね。そういえばミスティ、サイラの方面は最近どう? なにか変わったこととか」

  直後ミスティが答えたサイラの便利屋の現状にHEART・PROTECTIONのみんなは顔を強張らせた。

「んー、この前ユーゼ君と任務に向かったら騎士の男性が軽装の女剣士に「目立つなよ」と言ってるのを見たよ? それにあの女剣士..うん」

  騎士に剣士。やっぱりこれまでの出来事は繋がっていた。 それにしてもミスティ今の反応、女剣士について何か知ってるの? これは後でサイラに行く必要があるかな。

第10話 一握りの希望

「ごめん、取り乱しちゃったわね。 報酬は後日でいいかしら?」

 

 ルピナさんを誠意を込めて埋葬した後ネイさんは気丈に振舞い依頼を完結させようとしてる。けど、それでいいの?

「ネイさん、悪いけどその報酬は、まだ受け取れません」

  私の返答に彼女は戸惑いを込めた笑いで返した。

「えっ..どうして? もう村の件については結論出ちゃったしもう家族も知人も、みんなアンデッドと化しちゃったのよ? これ以上..どうもできないわよ」

 ネイさんの失ったものはあまりに大きい、けどこのまま悲しみのままで終わらせたくはない。 まだ可能性はある。

「ネイさん、村の方を人に戻す可能性が残されてるとしたら、それを望みますか?」

 さっきのさっきで彼女の傷に触れる質問なのは百も承知だった、それでも私の知り得る可能性で残った人が帰ってくるのなら..。

「そ、それはもちろん、可能性があるのなら..けどアンデッドは聖なる力に弱いのよ? もうできることなんてどこにもあるわけ..」

「一つだけ可能性があります。 ただ、それを選ぶのはネイさん自身です。 可能性に賭けますか..やめておきますか?」

 

 エイミーが『そんな言い方』と言うもあえて私は続けた。

「実は私も7年前に失ったものがあるんです。 ネイさんみたいに悲しいとか辛いではないけれど、失くしてからしばらくの間はずっと喪失感に苛まれていました。 それでも今は前を向けるようになった。 HEART・PROTECTIONのみんなが前を向かせてくれた。

 世界中を笑顔にするなんて大それたことをできるとは思ってはいません。 だけど‥せめて私は私の手に届く人の笑顔を守りたい。ですからネイさん、まだこの依頼、私の中では完遂してませんよ」

 思いの丈を伝えたてから少しの沈黙も間もなくエイミーとモニカも私に続いた。

「ノエルのことだから言うと思ったわ、あたしも同じ意見よ。 このままネイさんや村の人達がなにも救われないバッドエンドなんてあたしはごめんだわっ」

「最後はみんなが笑顔でいること、それがなによりなんだよ。 ネイ姉ちゃんノエル姉を信じてよ、HEART・PROTECTIONをから悲しみながら帰るお客さんなんてモニは出したくないんだ」

 それぞれの思いすべてを聞き終えたネイさんは深呼吸とも嗚咽とも取れぬ長さの呼吸の後『少しだけ考えさせて』と言い残し自室に籠ってしまった。

「ノエル、あなたのことだからなにか考えがあって言ったんだろうけど、確実性はあるの? 助けを求める人へ手を差し伸べた以上、それを離すことは許されないし、あたしが許さない。 例え親友のあなたでもね」

「もちろんっ、この件は間違いなく陣の書き換えが絡んでるはず、その証拠に騎士はネイさんが村にいた時以外はアンデッドと化した村人に手を出していない、なぜ彼女がいた時だけ? 状況を知ってるなら例の騎士自ら最寄りの街の役場やギルド、便利屋に通達するはず、この事件いろいろと不自然な点が多すぎるよっ」

  私がひとしきり思案することを語り終えるとモニカがガルムの首元を撫でながら村に着いたばかりの出来事を話してくれた

「ミー姉、ノエル姉の予想は多分当たってるよ、オオカミちゃんの寂しそうな遠吠え、ルピナ姉ちゃんを埋めてからは鳴かなくなったから村の人はアンデッドになって尚今も生きてはいるんだと思う」

 私とモニカの意見を聞いたエイミーは『よいしょっ』といいながらイスから腰を下ろした。

「なるほど‥それだけの情報があれば動くには充分ね。 けどネイさんの答えがない以上動きようもないわよね‥」

  その場の誰もが煮え切らない表情を浮かべていたが、すぐにその問題は解消された。

 奥の部屋からネイさんが戻ってきた。 その顔からは迷いは見えず、なにかを決意した眼をしていた。

「ノエルさん、選ぶのは〝私〟と言っていたわよね? 母さんや父さん..みんなを救いたい」

「私もです、助けましょうっ。 みなさんのこと」

  その後はこれからのことを説明した上で村の陣まで案内をしてもらい、書き換えのや損傷の有無を確認させてもらうも、状態は余りにひどく3人して『うわぁ』と声を上げてしまった。

「この陣の絵って屍‥よね? 誰がどう見ても書き換えられてるじゃないの‥ノエル、通信できる?」

「ルーシーだね? 最速で伝えるよ」

 エイミーが言わんとしてることは理解できた、ルーシーは陣についての知識も長けている。 時間はまだ正午過ぎだ

 から余裕で間に合う。

 数秒の霊波音と共にモソモソとなにかを頬張ってるのか間の抜けた声で喋る姐さんの声が聞こえてきた。

「あ、ノエウひゃん? どういあお?」

「ルーシーさぁ、モニカじゃないんだから飲み込んでから喋ろうよ。 ってそれどころじゃなくて、今からパティスまで転移できそう? 火急の用なの」

「..わかった。 すぐに向かうわね」

 

 私の意図を察してくれたのか、ルーシーは通信を終えた5分後には到着するなり陣を凝視し始めた。

「この文字にこの画、人をアンデッドに変質させる術式になってるわね。 故意じゃなきゃこんなことにはならないわ」

「ルー姉、直せそう? ネイ姉ちゃんの泣いてる時モニまで悲しかった。もうそんなこともう終わりにしたい」

「モニちゃん優しいのね。 大丈夫、この文字癖があるけどこれくらいの術式ならすぐやれるわ」

  ルーシーはそう宣言するとすぐにとりかかり、2時間後にはアンデッドから人に戻る形式に修復を終えた。

「こんな感じかしら。 思ったより時間がかかっちゃったわね、後は月夜にここへ誘い込めば..」

 

 どうやら村の住人を元に戻すには月夜で陣に周囲25mの範囲に対象がいることが条件らしい。

 今夕方の時点で快晴の確率は10割、日付が変わるタイミングで決行することが決まった。

  一旦ネイさん宅に戻った私達は深夜になるまで待機することにした。 この村ってどんな地域だったんだろ、事件前はきっと綺麗な景色だったに違いない。

「ネイさん、パティスってどんな村だったんですか? 事件前のこと、ネイさんのこともっと知りたいですっ」

「ありふれたものよ? それでもいいなら..ここは観光地でもなければ都会でもない生粋の田舎って感じの村ね、それでも季節ごとの作物が取れて四季の景色が顔を覗かせて、離れがたい地だったわ」

 ネイさんの言葉にエイミーも興味を惹かれシエストへ移住したことを尋ねた。

「それなら、なんで大切な故郷を離れたの? 大切な生まれ故郷なわけだったんでしょ?」

「数年前、古代の風習に詳しい方からこの世界の生贄の歴史を聞いてね、『なにかしなきゃ』って思ったのよ」

 後に知ったことだけど、生贄の共通点は当時の私くらいの年齢の女性だったみたい。

 ネイさんは悲しい風習が再び起こることのない様考古学を学びたくなったんだとか。間接的な意味では私のために憂いてくれてるみたいで嬉しかった。

「ネイさん、村の方、絶対救いましょうっ。 そしたら私、この村の元の景色必ず見に行きます、ね? みんなっ」

  (ネイさんは顔も名前も知らない人のためにここまでしてくれてる、私達はもっとそれに応えなきゃ)

第9話 向き合うべき事実

さっきの黒いフードの人物が気になり寝付けないまま天井と睨めっこしてからもう3時間は経過している。

「ノエル、起きてる?」

「エイミー? 起きてるよ。 ごめん起こしちゃった?」

「あたしも寝付けなかったとこ。 ここじゃ2人が起きちゃうからバルコニーで話そうか」

 誘われるがまま私はバルコニーに出た、もしかしてエイミーも私と同じこと思ってるの?

「いい風、いろいろあり過ぎたから頭冷えるわね。 ノエル、ネイさんの依頼の件とルーディの件どう思う? 特にロカムの件と今日の件で二日も事件が続いてる。 何か繋がってることは確かなのにどうにも煮え切らないものがあるのよね」

 エイミーが言う煮え切らないもの、今回の依頼も含め3つの事件は自然発生なわけでは決してない。 でも確かにどこか不自然だ、いったい何が..各町や村周辺の生き物の変異、陣..もしかして。

「エイミー、気になったんだけどさ、ロカムの陣はどうなってたんだっけ? 見慣れない人の目撃情報とかってなかったっけ?」

「そ、そうよっ。 ルーディとパティスの事件の共通点が見慣れない人物の出没なら、なんでロカムでは〝それ〟がないの? それに陣は‥小さな村とはいえ人の住む地に最低限なくてはならないはず..」

 

 エイミーにもさっき宿の前で目撃した例の件を、話してみようか、ここまでのこと考えると全くの無関係なわけがない気がする。

「エイミー聞いて、実は宿に入る前一瞬だけ怪しい人物が見えたよ、黒フードで顔なんてロクに見えなかったけど、次の瞬間にはもう見失っちゃってたから気のせいかと思って..」

 そう告げるとエイミーは呆れたように『あのねぇ』と答えた。

「そういうのは早くいいなさい? 些細な情報だって集まれば大きな収穫になるんだから、それにしてもなんだろ、ノエルが言ってる黒フード、聞いた限りでしかないけどルーディで目撃したのとネイさんが遭遇した騎士の話からは伝わらない禍々しさを感じるわ」

 私は明日にでも霊素での通信によってルーシーに情報を共有しようか聞くもエイミーは『まだいい』と言うかのように首を横に振る。

「やめておきましょ。通信だと外部から盗聴される危険性がある、パティスの件を解決したら直接報告する方がいいわ」

  盗聴..シエストかピオスに霊波を辿ろうとする者がいる可能性に繋がる。 黒コートに女剣士、パティスの騎士はグルなのかな、なんにせよ油断はできないな。

 ある程度の結論が出た所でエイミーは大きな口を空けてあくびをしていた。

「さて、もうひと眠りしましょ。 少しでも休んでおかないとこの後持たないわ」

 ちょっと話し込んじゃったかな、もう夜が明けかけてる。

「そうだね。 依頼達成のコツは健康第一だもんね、おやすみー」

  この青白さからして、退室まで6時間、実質あと3時間くらいしか寝れないなぁ。 寝不足ならないといいけど。 

  ここは、どこ? なんとなく夢の中というのは理解できた。 建物の中みたいだけど、登ってみよう。

  思い切って上り始めたはいいけど、登れど登れど上には到達しない‥。

「それにしてもリアルな夢だな、いったいこの建物何階まであるの? 数えるの面倒になってきたな‥これじゃまるで塔っ‥塔? ここは夢で、塔の夢、もしかしてオブリヴ? わ、まぶしっ」

 ----

 目の前が眩しくなったのと同時に私の夢はそこで途切れた。

「さっきのはいったい、私から欠けてる記憶? わっ」

  視線を正面に向けたらエイミーの顔がゼロ距離に、思わず声を張り上げてしまった。

「遅ぉいっ、もう退室2時間前よ? ほら、チャチャっと顔洗って朝ごはん行こっ」

  そういえば昨夜はみんな疲れて夕飯なんて取らないで寝ちゃったんだっけ、私含めて全員お腹の虫がなってる、急いで支度しなきゃっ。

「ふぅ、寝起きだからかあまり朝は食べられないものだね」

  あれからすぐ席についたが、寝不足な上起きてすぐじゃさすがに紅茶くらいしか喉通らないや。 それにしてもモニカ食べ過ぎ、よく朝からあんなにお代わりできるなぁ。これにはエイミーも軽く引いてる。

「モニカってばよく起き抜けでパン5枚も食べれるわね。 どういう食欲してるの?」

「いーの! だってモニ育ち盛りだもん」

「いや、あたしがモニカのだっ年齢だった頃もそんなに食べれなかったわよ。それにしてもネイさんごめんなさいね、朝食代出させちゃって」

  朝食はネイさんが全額負担してくれた、私もエイミーも再三遠慮はしたのだけれど、押しに負けちゃって‥

「気にしないで。 みんなにはかなり負担のかかる依頼だからせめて朝食代くらいは上乗せ分として受け取ってくれると嬉しいわ」

  本人がそれを望むならその好意ありがたく受けておこう。 せっかくの心遣いを無下にすることもないかな。

  昨晩のエイミーとの会話の件に考えを巡らしつつ紅茶を味わっていると客と店員の会話が聞こえてきた。 どうやら今夜連れが来るとのことらしい、宿泊客らしき銀髪の男性は連れの分の夕食のプランを予約していた。

「すみません、今夜連れが来るのでこのプランBをお願いします」

「それでいいのですか? 持て成すのならプランAの方が喜ばれるかと」

 

 店員がメニューの選択の提案をしたら男性は抑揚のない声で淡々と言い切った。

「いや、これでいい今日はプランBでなければならないんだ」

 こだわりがあるのかな‥まぁどこにでもこういう感じの人はいるか。

 ー---

「ここが、パティス‥」

 

 ネイさんを除き私達は村の光景に呆気に取られていた、日中だというのに人っ子一人いない、ネイさんはこの状況をどう思ってるのか、モニカならガルムを通して気付けるかも

「モニカ、お願いしてもいいかな? なんか嫌な予感がする」「正直言うとモニも、知っちゃいけないこと知りそうで..でもやってみるよ、オオカミちゃん頼むね」

 程なくしてガルムがモニカのとこに戻ると『クゥーン』とどこか寂しげな鳴き声を上げていた

  エイミーが『なにがあったの』と聞くとモニカはやりきれない表情で結果を話し始めその内容にネイさんは『どういうこと?』とキョトンとしていた。

「ネイお姉ちゃん、結果から話すけど..アンデッドは多分、村の人たちだと思う。

 

原因はわからないけど一夜で村人全員がアンデッドになっちゃったみたい‥」

「えっ? 待って、言ってることが理解できないんだけど..じゃあここのアンデッドは村のみんなで騎士の方が斬ったそれは..」

 

 理解が追いついたとこでネイさんはこちらに振り向きもせず走り去ってしまった。

 

 今は一人にしちゃいけない。衝動に駆られた私達はネイさんの後を追うが辿り着いた場所で彼女はアンデッドの屍の前で私に尋ねた。

「ノエルさん、このアンデッドの遺体、修復できる?」

 私は『辛い結果になると思います』と忠告をするも彼女は事実を求めた為、私は屍にレイズをかけた。

 その姿は見る見る間に変化し、息絶えてはいるが、それでも尚清楚で美しい女性の遺体へと変化した..というより戻った。

「ルピナ、嘘..よね、だって村を発つ時まだあんな元気に手振ってくれてたじゃない。嘘よ..目明けて、目あけてよ!」

  ポツポツと降り出した雨はやがて誰の話し声も聞こえない程の豪雨となり私達に降り注ぐが、今はそれでいい。

 地面を叩く音だけが彼女の叫びを搔き消してくれた。

 今はただ気の済むまで泣かせてあげよう。空もきっと彼女と同じように嘆いているに違いない。

第8話 悲嘆の学者と廃村の謎

故郷に帰ったら村人がいなくなって同時期に夜な夜なアンデッドが?」

  私の反応に沈みがちに話を返してきてる薄めの緑のショートヘアの彼女はネイ・キーア、今しがた店長が連れてきた依頼者でシエストで考古学の研究を生業としている。

「えぇ、この間久しぶりに故郷の〝パティス〟に帰ったところ両親含めて村人全員の行方がなくなってて、不安ではあったけどその日は疲れて眠り目覚めた晩には村中あちこちでアンデッドが徘徊してたわ。 私は襲われそうになったのだけど偶然居合わせた騎士の方に助けらたわ」

「おかしい‥なぜこんなことに、私はそう感じたままこの件を解決してくれるところを探しにサイラという町の便利屋で依頼をしたところHEART・PROTECTIONの紹介をしてもらったの‥。お願いです、この不可解過ぎる出来事を解決していただきたいです」

 ネイさんの依頼のおおよそは把握した。 消失した村人に夜な夜な現れるアンデッド、見慣れない騎士..まさかっ

「あの、ネイさん、村の結界の陣はどうなっていましたか? 私の憶測が間違ってないとすると..」

 

 エイミーは察した様子でルーディの出来事を話した。

「それって、内容的にはルーディですれ違った陣を破壊した疑いのある女剣士とほぼ同じじゃないっ、それが同時期に? ルーシー、どう思う?」

「えぇ、私は話を聞きかじったに過ぎないけど、似た事件が起き始めいてるのなら看過できない事態ね。店長、どうする?」

「そうだな。 それなら今回はノエル君とエイミー君、それからモニカ君でパティスに向かってもらいそこで昼間はネイさんに従い依頼の遂行に当たってもらいたい」

 

 モニカが来てくれるのはありがたいな。 今回の相手はアンデッド‥数の暴力もあり得るし、そうなったらいくらルーシーの腕が立つとはいえ座標転移対多数には相性が悪い、仮にルーシーを呼ぶとしたら陣の修復の必要性がもしあったら来てもらうかも..。

 パティスまでは4日間かかる。 シエストを通り越してアーシェスを迂回した先の小さな村が今回の目的地となってる。

「それではネイさん行きましょう。 焦る気持ちはわからなくないですけど、4日の道中は長いですから気長に行きましょう」

「大丈夫よ。 待つ人なんて今は誰もいないからなにも急ぐことなんてないわ‥」

 どうしよう、こんな時どういう風に声かければ‥優しい言葉も時には凶器になりえる‥どの言葉が彼女の心に寄り添えるのか、ダメだ。 私には気の利く言葉が見当たらない。

 

 言葉を詰まらせる中エイミーの声が静寂を破った。

「そういえばさ。途中シエストに立ち寄って調べてほしいことがあるからネイさん頼めるかな? 近況の事件のこととか、最近あたしたちの身の回りおかしなことが多いじゃない? ネイさんの困ってることとあたしらが受けた依頼って何か裏で繋がってるのかも、それにここからシエストまでだって2日はかかるわけだからルーシーに転送してもらおうよ? ね? ルーシー?」

「簡単に言ってくれちゃってぇ、自分以外の人を正確な場所に転送するのってかなり大変なのよ? エイミーちゃん今回は貸しね?」

「じゃあ出世返しってことで、いいよね、ルーシーお姉さま?」

『まったくぅ』と言いつつも笑顔で協力してくれてる。

  私もルーシーの面倒見の良さには甘えっぱなしだから一日でも早く頼れる後輩兼妹分にならないと。

  初めての座標転移にネイさんは戸惑うがモニカが上手にフォローしてくれてるからなんとかなりそう、転送する側とされる側の両者が精神バランスの安定がなければこの術は成功しないこの方法はいわば共同作業に等しい。

「え、なにこれ、なにが起こるの? なんか不安」

「だいじょぶだよネイ姉ちゃん、ルー姉がいればシエストまでならあっという間なんだから」

  ルーシーが『いってらっしゃい』と言うと私達の視界はほんの一瞬真っ白になった。

「え? もう着いたの? 本当にあっという間ね」

  ネイさんは初の転移術にすごいというより呆気に取られている様子だった。

 確かルーシーの英霊術って失われし力、〝ロストアーツ〟の一種だとか、その上簡易的な陣の書き換えもできるとか

 あのお姉さん何者なんだろ。

  エイミーは早速といった様子で知識の館での調べごとをネイさんとモニカにお願いした。

「じゃあ2人共お願いしてもいいかな? その間あたしとノエルで宿の手配と道具の買い足しに行ってくるから」

「えぇ。どの程度まで調べられるかわからないけど館内の書物一通り見てみるわね」

「うぅ、モニ難しいの苦手だけどできるだけがんばる」

「それじゃノエル行こっか」

 

 ある程度館から離れてからネイさんへのピオスでの対応にについて話してみた。

「ほんとエイミーってばいざという場面でいつも機転が利いてすごいなぁ。

 私は『なんとか気の利いたこと言わなきゃ』ってオロオロとしかできなかったよ」

「気を利かせたつもりなんて全然ないわよ? ただ上手く違う話題で気を逸らしただけ」

 私が感心してるのをよそにエイミーはケロっとした様子で言い私は『えぇ?』と戸惑ってしまった。

「いいノエル? 心の扉を閉じてる人に寄り添う言葉をかけてあげるのはもちろん優しさ、けどあえて〝なにも言わない優しさ〟もあたしはあると思うんだ」

「言わない..優しさ?」

「そう。人によっては辛い時に寄り添われるのさえ『何も知らないくせに..』と疑念を持つ人だっている。

 だからそんな時はあえて〝その件〟から逸らすのもアリだと思うの。例えば..モニカが元気ない時はお菓子の話を振るとか」

 例えのダシにモニカかぁ。うん、わかりやすいし眼をキラキラさせるのが容易に想像できる光景に吹き出してしまった。

「ぷっ、例えがわかりやすい。 でもモニカが聞いたら怒るよ? 『モニはそんな食べ物で釣られるほど子供じゃないもんっ』とか言いそう」

「それも両手ぐるぐるしながらよね? さすが我が社のマスコット。 さて、早いとこ用事済まして戻らないと。2人を待たせちゃうわね。急ご」

  ――シエストの雑貨屋ってこんな感じかぁ、さすが考古学の都市だけあって探索用の道具がそろってる。

 座標転移石は高価ながら危険地帯から一瞬で帰還するのに多くの探究者から重宝されてる、

 まぁそんな高価な保険使うなら危険に踏み入るなって話ではあるけどね。でもそんな命知らずがいなければ今日までのあらゆる危機への想定や対策は為されず、人々はうろたえるばかりであったかもしれない。

  店内に入ると女将さんが『ふむ』と呟いた。

「お嬢ちゃん達も探究者かい? 女性の客さんが日に何人も来るの珍しいね」

  お嬢ちゃん達〝も〟? そんなに女性が来るのは珍しいのかな。

「いえ、私達は便利屋で依頼を受けてピオスから..あまり女性の方が来られることって少ないんですね」

「まぁねぇ、今日はまだ早い時間だったけど赤髪の女性のお客さんが来たかね。

『あなたは自分を誇れますか?』って聞かれたけど、どうしたのかしらあの子」

「そ、そうだったんですね‥それじゃとりあえず聖水と麻痺治しを15個ずつと‥」

 (店出たらエイミーと会議かな、実害は今はないみたい)

  店を出てから館に向かう道中、度々視線を感じる‥なんだろう、落ち着かないな。

「ねぇエイミーどう思う? 早い時間に来たっていう探索者の話」

「どう考えてもルーディの剣士ね。 あの一件の容疑の疑惑とはまた正反対の発言ね」

 

 自分を誇れるか..やっぱりあの剣士は何か深い事情があるのかな。いや、加担していたかどうかもまだ断定はできないからもっと深堀りして追わないといけないのかも..。

 知識の館に帰るとネイさんの前には書物の束が、これ全て読んだのかな?

「あらおかえりなさい。 あれからいろいろ調べてみたらロカム村のことで一つ判明したことがあるわ、なんでも今より遥か昔の生贄の一つで死人を呼び戻すのに村の中から数人と外の村から数人を用意して呼び起こす儀式があったのだとか..でもこの時代にそんな非化学的なことする必要あるのかしら?」

 てことは私何かを召喚するための生贄になりかけたってこと? 私生贄にされかけるの多過ぎない? お祓いでも受けておこうかなぁ。

「あ、ノエ..にミー..ぉかぇりぃ~。れきし..むずか..」

 

 ネイさんはモニカを背負いながら『モニちゃんもおねむだし、もう休みましょうか?』と提案する。私とエイミーも情報を整理したかったからモニカを連れながら宿まであとわずかの距離に来た時だった。

 (え? 一瞬路地裏に..誰?)

「エル..ノエルっ? どしたー。置いてっちゃうよ?」

「あっ、ごめん今行くー」

 (あの人影なんだったんだろ)

第7話 書き換えられた陣と謎の剣士

「市長さんが? わかった。 街の結界はもう復活した? 」

 モニカの話によると街の司祭の方々が陣を張り直したおかげで間もなく復旧がされるみたい、なんでも陣が書き換えられていたんだとか。

 街の門の近くへ戻ろうとした来た時だった。 私やエイミーより先にモニカがその存在に気付いた。ウェーブの長髪は夕日のように赤い毛色をしていてる。 あの身なりからして..剣士?。

「あの、どこへ行くの? さっき危ない魔物が周りにいたからまだ出ないほうがいいよ?」

 

 忠告を受けた人物は若干戸惑いつつ『いえ、平気』とだけ答えたらそのまま歩いて行ってしまい、モニカが気に掛けるが、私とエイミーが感じていた印象は全く違うものだった。

「まださっきのような魔物がいないとも限らないのに、あの人大丈夫なのかな、」

「過度に心配しなくても大丈夫だと思う。 なんとなくだけどあの人は強い」

「ノエルもそう思う? あの眼の感じからしてかなり腕が立つわね、少なくともルーシーと互角なのは間違いないと思うわ」

  それから私達は庁舎に顔を出したところ市長と関係者たちがそろって待っていた。

「みなさん、今回はこの街を守っていただき本当にありがとうございます。 街の者を代表してなにかお礼を言わせて頂きたい」

 うっ、べつに私達だけの活躍じゃないのになんか恐縮しちゃうな。

 市長にできるだけ丁寧に応対するとともにモニカに確認を取る。

「こちらこそ、兵士さんが協力してくれたおかげで私達も前線の防衛に専念できました。 皆で守り切った結果です。 それしてもなぜ普段は機能している結界が突破されたのか、それが腑に落ちません。 ねぇモニカ、警報が鳴った後街の中には変異した魔物っていた?」

「んー、街中は特に、いつも平原でよく見かける魔物さんだったよ?」

 どういうこと? 私達が相手をした魔物は変異してたから侵入しても不思議じゃないけど、普通の魔物が街中にいたなんて、それに結界は特殊な魔物以外は寄せ付けないはずなのにどうして。。

「あの、どうかされましたか?」

「あっ、はい、実は結界について気になることが..後で司祭様とお話をさせていただきたいです。

 

 まさかであってほしいが、聞くだけ聞いてみよう。 それで何事も無ければそれでいい。

「原因究明まで協力してくださるのですか? なにからなにまでなんとお礼を言っていいか」

「いえいえ気になさらないでください、私達も日頃お世話になっている街ですから」

 こうして私達は司祭様の元へ通された。ロカムの聖堂もなかなかに厳かな雰囲気だったがここルーディは建物の大きさや神聖さも段違いだ。 各町、地域から観光客が集中するだけはある。

 小柄な女性の司祭様は私達の姿を確認するとお礼の言葉を口にされた。『早速ですが』と私はモニカから聞き得た情報も交え結界がなぜ機能しなかったか、陣に変化はなかったかを尋ねたらところ、全く予想だにしてない答えが返ってきた。

「実は陣の前に見慣れない女性がいまして、どうしたのかと声をかけたら『いえ、なんでも』と言い残し去ってしまったんです。 去り際に『二つ目、か』と呟いてましたが‥まさかと思いまして。

  司祭様の言葉に私は『どんな方でした?』と問うとさっきすれ違った例の女性と特徴が合致していた。 これに対し私より先にモニカが先に反応を示す。

「それ、多分さっきモニ達がすれ違ったのと同じ人だよっ。 そんな悪いことする人には見えなかったのに‥‥」

  モニカはショックだろうが、今はどうするかが大事だ、私はエイミーに提案をする。

「エイミーどうする、追う? すれ違ったのが28分前、追いつけるかな?」

 エイミーは数秒思案するもその首は横に振られた。

「ううん、20分以上も前じゃここから街の門まで更に7分はかかる。 今からだと追うのはもう難しいわ。 とりあえず帰って店長とルーシーに報告しましょ」

  休暇に来たつもりが新たな事件のきっかけを掴んでしまった。 これが今後肥大しないといいが‥。

 

 それから私達は司祭様とお互いお礼を言い合い街を後にしたが道中モニカは終始物悲しい顔で物語っていた。

「それにしても、なんかショックだなぁ、あのお姉ちゃん悪い人に見えなかったのに、逆に何か悲しみ抱えてそうに見えたのに..」

 時折モニカから出る口振り、モニカは時に一瞬で他人の表情からその人の胸の内を見透かす素質を見せる、あの女性も望まず何かをしていたのだろうか。

 いや、理由が何であれ人々の平穏を脅かしていいことにはならない。 もしも次対峙した時は当人の本心を聞く必要があるな。

 しょげるモニカをエイミーがなだめていた。

「まぁまぁモニカ、あの人もなにか事情があったんだと思うよ? 今度どこかで会ったら聞いてみるといいんじゃないかな?」

  今度かぁ、今回のがただの愉快犯でその〝今度〟が来ないといいんだけど‥‥。

「――なるほど、謎の女性が事件の全容のカギになってる可能性があるわけね、それはそれとして‥‥」

  ルーシーはゆっくりと私達3人の前にスタスタと歩いてきた。 どうしたんだろと思うも次の瞬間、強烈なデコピンをされ3人して同じリアクションを取ってしまった。

「痛っっっったーーっ」

  これは痛い、痛すぎるっ。 単に力を込めたデコピンじゃない、霊素を込めたそれだ。 私達は涙目になるもルーシーは構わず言い放つ。

「街を守ったことは立派だけど、あなた達が死んじゃったら意味ないじゃないのっ。 ゴルガみたいのがいるなら街の人に協力を仰げばいいしそれでも無理なら逃げてもいい、命があれば例え悩んだり困ってもまた再起を果たせる。だけど死んじゃったらここまで繋いできた繋がりが永遠に消えてしまうのよ? もう無茶なことはしないで..

 無事でよかった」

「ル、ルーシー?」

  デコピンされてからのお説教から流れのまま私達3人はルーシーに抱き寄せられた。 ルーシーがここまで様々なことに厳しさや慈しみを見せるのって、彼女の過去にいったい何が‥

「ごめんねルーシー、心配かけて..一つ聞いてもいいかな?」

「いいわよノエルちゃん。どうしたの?」

 その後私が『ルーシーって..』と言いかけたところで事務所の扉が開く音が背後から聞こえた。

「ただいま、あぁモニカ君任務お疲れ様。 ノエル君とエイミー君は休暇なのに帰るの早くないかい?」

  店長、どこ行ってたんだろう..それにそこの女性はいったい..

 エイミーが『その方は』と問うとここに至る出来事を説明してくれた。

 

 彼女の名はネイ・キーア、この後受けることになる任務の依頼主であると同時に、遠くない未来で私と記憶の手がかりを繋げてくれる方だ。

第6話 街の危機!? 休日の防衛戦

「さてノエル、どうする? 下手に動いたら怪我じゃ済まないわけだけど..」

そう、今私達は文字通り進んでもピンチ引いてもピンチといった状況になってる。

フォーメーションとしてはオオカミ種のガルムが右手に3匹、人型ゴルガが中央に2匹、鳥種のピークが左手に3羽。

この状況どうにかするには私かエイミーどちらかが目立ち過ぎても全滅するからなんとか上手くけん制しないと。

「エイミー、アレやるの久しぶりだから上手くいくかわからないけど先に霊素送っとくね」

「大丈夫なの? あたしはともかく、ノエルへのリスクが..」

エイミーの不安をよそに私は短剣を逆手持ちにした状態で構える。

「どっちにしてもリスクは変わらないよ。 私達がここを守れなきゃルーディのみんなの住むとこがなくなっちゃうもの、それが痛いほどわかる」

「ノエル..そうだね、みんなの住む場所守らなきゃねっ..援護は任せてっ」

『任せた』と言いながら構えた体制のまま魔物の群れに駆け出す。 そのまま突っ込んだらただ自殺同然に猛攻を浴びに行くに過ぎないわけだが、こっちも無策のままなわけじゃない。

「させないよ、付随、火炎っ、」

私は短剣に炎を纏わせ正面から迫るゴンガの拳を回避からそのまま右へ旋回しつつガルムを捉える。

「もう一発、はぁっ!」

振り向きざまに刃を突き立てガルムをゴンガ目掛けて突き飛ばした、霊素を右手に集めすぎたせいか少々痛い。

「エイミー、雷矢だよっ」

「オーケー、なんか良心痛むな」

エイミーが放った矢の電流は魔物周辺の炎に引火し、大爆発を引き起こした、その一撃で魔物の群れの半分以上が一瞬で吹き飛ぶ。

「それにしてもこれって奥の手よね? 奥の手先に出しちゃう?」

「出し惜しみしてたら多勢に無勢だからね、先に数減らしておかないとこっちが危なくなっちゃうよ。 でももう霊素が半分程度だから同じ手は使えないかな」

私の回答にエイミーは少々慌てていた。

まぁ確かに危機的状況でケロっと『半分』なんて言われたら焦るよね。

「ちょっ、半分程度って、どうすんのよ? あたしも矢は5本しかないわよ?」

「5本もある、私とエイミーならやれる、前線は任せて」

「もぉ、わかったわよ、そんで、策は?」

エイミーの問いを背に全身に霊素を込めて駆け出しながら答える。

「私が隙を作るからエイミーがそこに矢を撃ちこむ、オーケー?」

「行き当たりばったり? 店長スタイル? ほんっと無茶するんだから―」

なんてやりとりをしていたら接近してきたゴルガが大振りの拳を放ってくる、それを左へ避けた直後、斜め上からピークのついばみが襲い掛かってきた。

「読めるっ、エイミー!」

「任せなさいっての」

ついばみを弾き返されたピークにエイミーの矢が胴体にヒットする。 『バサッ』と音を立てながら宙を舞う鳥は真っ逆さまと地へ落下しその姿は煙と化す。

ピークが消えた? いや、まだガルムが残ってる、集中しないと。

その後もゴルガのスローな拳をかわしつつガルムを仕留めるもやはり煙と消え、その状況に私もエイミーも唖然とする。

「さっきのピークといいどういうこと? 生きてる以上遺体が残るはず、なのにこれは・・まぁそんなことは後回しか、あとはゴルガ1頭ね、多分さっきの仲間がやられた怒りでコイツかなり攻撃的になってると思う、ノエル、大丈夫そう?」

「大丈夫なようにする、私も怪我したくないからね、付随・加速」

霊素を風に変換させる。足に力を込めてゴンガのかく乱を開始した。

「ノエル、くどいようだけど、絶対当たんないでね。 そいつの拳の威力は800KG、食らったら骨砕けるわよっ」

「もちっ、隙ができたとこを斬りかかるからエイミーは目立たないようにしといて」

ひたすら周囲を走り回り、拳が飛んできそうになったらステップで避ける、隙ができたとこに斬りかかるを繰り返すが、これが簡単ではない。

なにせ同じところをぐるぐる周るから目が回り三半規管が疲弊する。 そんな中で致命の一撃を避けなきゃならないわけだからまさに命がけ、英霊書も読んでおいてよかった。 もし怠ってたら今日が私達の命日になってたに違いない。

「うあっ、あぶなっ、はあぁぁっ」

「ノエル―! もう8発は与えてると思うけど撃って大丈夫そう?」

まだ、ゴルガは皮膚がとても厚い、8回斬りつけたくらいじゃ矢なんてとても効かない、せめてあと2発、それさえ決まればっ、そう考えていた時だった。

「え? 待ってちょっと、エイミー逃げてっ」

「え? うわあぁぁ!?」

私を捉えきれず痺れを切らしたゴルガは急旋回をして標的をエイミーに切り替えた。 まずい、この位置からじゃ間に合わない。

次の瞬間、ゴルガが地に放ったナックルの余波で飛んだ岩がエイミーの足首を捉える。

「ごめん..あたしもうダメかも、なんとかノエルだけでも……」

そんな、私はなにも失くさない自分になりたくてHEART・PROTECTIONの門を叩いた。 ここで一人でも守り切ることができないなら私は二度と自分を許すことができないっ。

「ノエルっ、なにをっ」

気づいた時には私はエイミーを庇うようにゴルガの前に立っていた。

「大丈夫だよエイミー。 HEART・PROTECTIONが1人でも立ってるなら、犠牲は出ない..絶対に出さないっ」

胸のペンダントから普段私が使い慣れてる霊素のそれとは違うものが沸き上がってきた、ゴルガの拳が眼前に迫るが、構わず逆手に持った短剣を拳の甲に突き立て、怯んだ一瞬に手の甲を踏み台にして蹴り上げを仕掛ける。

「見える、いくらゴルガといっても、眉間は鍛えようがないよね、そりゃあ!」

信じられない、残った限りのありったけの全力..だとしてもゴルガを怯ませた? 勝機を見出し、一点に意識を集中して放った一閃はゴルガの弱点を正確に貫いていた。

「エイミーっ、今度こそ、これ逃したら次はもう、ないっ」

「了解、ノエルの作ったチャンス、無駄にはしない‥‥はあぁぁ、炎弓・焔!」

エイミーの放った炎は霊素により何倍にも増幅してゴンガの胸部を貫いた。

ゴルガが倒れ、その身体から蒸気が出てきている、その隙にエイミー側にかけより残ってる霊素を振り絞りリザレクトをかける。

「ごめんねエイミー、前線出られる私がいながら守れなくて、次はもっと私強く、んぐ?」

なぜか鼻をつままれてしまい思考が止まる、どことなく『もぉ』と呆れてる感も‥‥。

「まぁたそういうこと言う、こういう稼業である以上怪我は付き物だし怪我したのがもしかしたらあたしじゃなくてノエルだったかもよ? でもノエルのことだからノエルが怪我したって『足引っ張ってごめん』とか言うんでしょ? そういうのナシ、ダチなんだからねっ」

「そだね、ありがとう..それにしてもゴルガまで姿が消えた? これはいったい・・」

私とエイミーが警戒していたところ、『2人ともー大丈夫ー?』と聞き慣れた聞こえてきた。

「モニカっ、街中はもう大丈夫なの?」

「もっちろん、スラちゃんとゴーレムちゃんのおかげで魔物は全部やっつけたし怪我人も出さないで済んだよ」

「さすがモニカ、あたしはちょっとドジったっぽい、でも最後はノエルがチャンス作ってくれてなんとかなった。ゴルガのパンチを短剣で無効化したかと思ったら頭へ蹴りとか決めてるんだもの、回復術したり短剣を振ったり格闘術をこなす、ノエルの職業ってなんだっけ?」

「なんだろね、私自身ナゾ」

でも謎なのは本当だ、さっきの拳をいなしてからのあの流れはいったい‥‥いくら強化の英霊術を使ってもその効果はせいぜい三倍まで、まして私は強化術なんて習得していないのに明らかに4倍はあろう力が出ていた、人一人の

強化の上限を超えている。 これも塔の一件が絡んでるのかな。

 

自身の過去に考えを巡らせたいとこだがモニカから報告が入ったからそれは後にすることにした。

「そんじゃ、ミー姉の応急手当終わったし街に戻ろうか? 市長さんが話しあるんだって」

市長さんが話? どんな要件だろう。

第5話 事件の共通性と不穏な影

引き続き私たちはルーディを散策の道中モニカの口から店長の交通費へのケチ具合が伺えた

「なるほどねぇ、そりゃこってりと絞られちゃうよ。この前なんて『君は旅費は召喚術があるから移動費はタダ同然さ』なんて言うもんだから困っちゃうよね、店長のケチんぼっ」

 モニカの文句にエイミーがフォローするかのように店長の過去を語り始めて私もそれに続く。

「でも店長あの街に恩があるみたいだからね。 両親亡くして大変な時も街総出で差し入れしてくれたみたいだし」

「そうそう、後日お礼の品を持っていったら『お礼はいいからいつかあんたみたいに困ってる人がいたらその時に助けてあげな』いう出来事があって、それが私達の事務所のルーツになってるんだとか。

 とまぁここまでは美談で終わるのだけれど、それが行き過ぎて日頃の赤字になってるんだけどね。 ギルバートさん物には限度というものがあるのですよ。

「なんかあちこちの魔物さん昔もそうだけど最近は今までにも増して凶暴化してない? 気のせいならいいんだけど、寝不足かな? 2人共昨日行ったって村はどうだった?」

 魔物の凶暴化はちょうど私がピオスに移住する前後から世界中の動物は狂暴化を見せ人々から『魔物』と呼ばれるようになる。 その傾向がここ近日尚更強く表れてきて私達の仕事も街や村、いろいろな場所への護衛の依頼が増えている。

 私は近況の魔物について問いかけてくるモニカに答えた上で聞き返した。

「確かにそうだよねぇ。 昨日の依頼なんて村の村長さん異形化しちゃってたし、あれルーシー来てくれなかったら私もエイミーも冗談抜きで死んでたよ。 モニカの遭遇した魔物ってどんなんだったかな?」

「んとね、目が赤くて前足や尻尾が刃物みたいになってて物凄い速さで突っ込んでくるの。

 んで倒してみたら手配中のドロボーさんで助けてはあげたかったんだけど、ノエル姉のレイズみたいな術使えないからスリさん亡くなっちゃった。 それはそれでかわいそうではあったんだけどね、それにしてもゴーレムちゃんいなかったら危なかったな」

 焦る私にエイミーが『まさか』といった感じで聞いてきた

「ねぇノエルそれって」

「うん、その魔物ロカム村の村長さんと多少の違い以外はほとんど同じ症状だよ。 ねぇモニカ他にもなにがあったか教えてくれないかな?」

「えっとね、うわごとのようなこと言っててヤバそうな人だと思って様子見してたんだけど、急に叫んだのと同時にヤバい生き物に変身してそのまま戦うことになった」

 

 人間まで魔物化するなんて、でも村長さんとはどこか違いが..計画性の有無? 一度事務所に戻ろうかと提案しようとした時、その声は門の方角から聞こえた。

「魔物だっ、魔物が侵入してきたぞっ! 女性や老人、子供たちは屋内へ退避っ!」

 街の人の逃げ惑う姿をうかがう私達に警備の人が逃げるよう促すが私とエイミーは協力する意思を見せる。

「君たちもそこのお嬢ちゃんを連れて逃げなさいっ。 ここは我々に任せてっ」

「いえ、私達は便利屋の者ですので戦いの心得は一通りあります。 モニカ、街中の魔物退治に避難誘導お願い。 エイミーは街の入り口を見てきて」

「オーケー、できるだけ急いで戻るから持ちこたえてよね」

 一人、また一人と私とモニカは街の人を避難させた。 あの魔物たち、やっぱり変異してる。 今の所は警備の人もいるおかげで大きな被害も出てはいない、この調子ならなんとか無事に..と思ったのも束の間、逃げ遅れたおじいさんにオオカミ種のガルムがうなり声をあげて迫っていた、その状況におじいさんは打ち震えている。

「うぅぁ、ワシなど食っても美味くないぞ、嫌じゃ、死にとうないっ」

「おじいさんっ、今助けますっ」

  私は雷の英霊術を構えるが発動までタイムラグが、間に合わないと思ったその時だった。

 --シュッ--

  高速の矢がガルムを捉えた、この矢はっ。

「危なかった、なんとか間に合ったわね、おじいさん大丈夫ですか? 今の内に逃げてください」

 お礼の言葉を述べるおじいさんにエイミーは『お礼はいいですから早くっ』と促すとおじいさんは近くの屋内へ無事避難した。

「ミー姉、外の様子はどんな状態? こっちは魔物が5匹くらい残ってる」

「まずいよ、入り口に6匹くらい魔物が待ち構えてる。 このまま門を開けるとまた街に流れ込んでくるかも」

 おかしい、街の周囲に魔物除けの結界が張ってある以上街に入ってくることはないはずなのに、このままじゃおじいさんみたいにまた街の人が。

「エイミー、モニカ、休暇はおしまいっ、街の安全の確保に急ごう」

「そうね。 モニカ、街中は任せて大丈夫?」

「余裕余裕、スラちゃんやゴーレムちゃんは頼りになるからね。 ノエル姉霊素分けて、この子たちがいれば負けないんだからっ」

 モニカは拳を突き上げながら『うおぉー』と街中へ進んでいった。

「よし、街はモニカのお陰で大丈夫そうね、後は街の外、それでさエイミー‥6匹って言ったよね? さっきより増えてない?」

「ちょっと、そんなことあるっ?」

 ガルムが3頭 鳥種のピークが4羽 人型のゴンガ3頭といったところか。

 

 狼は尻尾 鳥は羽 人型の獣は拳が硬化または鋭利化していて眼が紅い、モニカの言った特徴、先の依頼の村長さんと非常に合致している。

「エイミー、やれる?」

「やるしかないでしょ? 今回はノエルも支援回復一辺倒なんて手加減はできないわよ?」

「わかってる。 傷つけるのはなるべくならしたくないけど、正当防衛ってことにはなるよね」

 私は武具を杖から短剣に持ち替える。 今は私とエイミーが街の最終防衛線、HEART・PROTECTIONの名に懸けてこの街は絶対に護ってみせるっ。