第4話 残されし謎・たまの休日は妹分と共に
事件はなんとか解決されたけどいろいろと謎が残る。
村長さんの凶暴化と近年世界各地に溢れてる魔物はどちらも状況が似ている。 そしてなぜ私達が初めて村に来た時点で村長さんの中に憑依してる者は牙を向かなかったのか、気になることが余りにも多いため村の書庫の中をしばらく調べさせてもらった。
「ねぇノエルこの陣、オブリヴとアーシェスを示す旗にも似た陣が描かれてる」
「本当だっ、違う街なのにほとんど似てる、ルーシー、これってどういうこと?」
「ごめんねノエルちゃん、これは私もよくわからないわ。 結論を出すには情報が足らなくて‥また何らかの機会が来たら調べるのがいいかもしれないわ」
これ以上はめぼしい情報はないか。考えてみると今回の事件は古来からの逸話とかでもなく突発的に発生した事件だから仕方ない。メモだけでもして後で時間が空いたら整理しよう。
「それじゃ私達は帰りますね。 村長さん怪我、すみません..」
「いやいやそんな、ワシや子供たちを救ってくれたんじゃ、むしろなんと感謝の言葉を言えばいいか‥そうじゃ」
村長さんが自室から鮮やかな青色の宝玉を持ってきてそれを渡してきた。 これって‥。
「物を渡せば済む話じゃないのは重々分かっておる。 だが事件の張本人として詫びと礼をさせてほしい、ピオスでなら今なら時価20万ファムにはなるじゃろう。
に! 20万ファム? 今回の依頼で受けた金額の57倍!? いくら感謝とはいえ金額が法外すぎる。 ルーシーなんて口パクパクのお魚さん化してるよ。
「そ、そそそんな、ダメですよ村長さん。 慎重に、慎っ重になさってください、20万‥20万ファムですよ? 私達HEART・PROTECTIONの人員1人につき10回受けた依頼の報酬を人数分合わせた金額ですよ? 大金なんですからどうか、どうかご計画的にっ」
ルーシーはもう長らく店長のお人好しの安請け合いに振り回されちゃってるからなぁ、なんか去年より金銭感覚シビアになってるような。
それはそうとルーシーの論じた金額の計算は1人頭1回の依頼で5000ファム、そんな懐事情話すとウチが貧乏だと誤解されちゃうよー..あっ、貧乏だった。
「もちろん計画的ですとも。 村の混乱を鎮めて下さったんじゃ、これでも安すぎるくらいじゃ‥重ね重ね言わせていただきたい、本当にありがとう」
「結局ロカムの騒動についてよくわからなかったわね。 陣とかも謎のままだし、ノエルちゃんはオブリヴであの陣は見覚えなかったの?」
「そうだね。 仮にあったとしても見たのは私が記憶にない時だろうから、あるとしたら塔の中でその塔も今は近寄れないからね」
そう、呪いのせいでオブリヴには疎か、家族とも会えなくなっている。 塔の記憶はないのになんか理不尽だ。私とルーシーが神妙な面持ちしているとエイミーが陣について言及した。
「でもさ、収穫なかったってことはないよね。 アーシェスにも似たものがあるということは似たものがどこかにあるかも、有史前は生贄ってある地域もそれなりにあったわけだからロカムの件と似たとこがどこかにあるのかも」
ロカムの件と似た生贄のような出来事、今はないにしても痕跡くらいは恐らく世界各地にはあるのだろう。 ということは村長さんの身に起きたようなケースは今回ですべて解決‥ではない?。
なににしても、『コノセカイに復讐ヲ』この言葉が不吉でならない。 なにごともないといいけど。
ルーシーは宝玉を抱えながら歩き労いの言葉をかけてくる。
「さぁて2人とも、臨時ボーナス入ったから休暇申請しなきゃね。 適正ランク以上の危険任務行かされたわけだからリフレッシュしなきゃ身が持たないでしょ? その間私は店長をこってりと搾っておくから」
帰還後に店長が青ざめた顔をしてる光景が頭に浮かぶ、ギルバートさんご愁傷鵜様。
ーー
「あのぉ、3人とも険しい目をしてどうしたのだろうか」
店長がうろたえてる。 そりゃそうだ、人選も受注額設定も適当過ぎるんだもん。
いつも怒ってるルーシーがいつにも増して店長に詰め寄った。
「店長、なんで私がこんな顔してるかわかるわよね?」
「ええと、こんな顔というのはお美しいお顔ということで..」
エイミーから即座に『誤魔化すの下手』と突っ込みを受ける、いろいろと鈍い私でも、うん、これは下手だ。
事務所内に机を『バンっ』と叩く大きな音が鳴り響いた。
「いい加減にしてくれる? 今回の件でノエルちゃんもエイミーちゃんも一歩間違えたら大袈裟してたかもしれないんだから、なにか埋め合わせの一つくらいなきゃ割に合わないわ」
確かに今回は命の危機を感じたわけだし、なにかしらの形で労ってほしいなと思っていたらルーシーが店長にロカムで話していたことを要求した。
「ということでノエルちゃんとエイミーちゃんに休暇と臨時ボーナスをあげなくちゃね」
ルーシーの提案にエイミーは小さな子供みたいにバンザイをしてはしゃいだ
「休暇? やったっ、何日? 10日はあるかな? ねぇノエル休暇使ってどこ行こうか」
私も久しぶりの休暇に期待をしたが、その期待も間もなく泡と化した。
「そうだなぁ、一週間の休暇はどうだ?」
店長の言葉にエイミーは絶句する。 もちろん私も絶句する。
「はっ? 短っ 収穫祭なら2週間休むとこだってあるわよっ?」
エイミーの言う通り、ピオスやロカムは漁獲際に収穫祭、食料に関する記念となる時期が存在する、これくらいの規模の街なら10日の休暇はザラだが‥。
「ウチは貧乏で人手不足なんだ。 これでも休暇としては多い方なんだからありがたく思ってくれ」
これだよもぉ。 あ‥店長の背後にルーシー..私は何も見てないっと。
「貧乏なのは店長が危険度の高い依頼とかを安価に安請け合いするからでしょう? だから報酬貰っても武具の手入れに傷の手当で毎回プラマイゼロ、むしろマイナスになってるんじゃないのっ! 」
「あたたたっ、待てルーシー君、暴力反対っ」
「まぁそういうわけで、ボーナスは弾んであげてもいいんじゃないかしら、ちょうど村長さんからいただいた宝玉もあるわけだからね」
「ま、待ったルーシー、このお金はウチの当面の資金‥」
「なんか言った?」
「いや、だからこれは当面の資金で私のポケットマネ‥」
「な・ん・か・言・っ・た?」
「な、なんでもありません。 ノエル君、エイミー君どうぞ、トホホ」
おぉぉ、やっぱり本気で凄んだルーシーは怖いや、怒られないように気を付けようっと 。
私とエイミーに臨時ボーナスと称したお小遣いをくれるもげんなり顔な店長、ルーシーと主従関係が逆転してるよ。もうルーシーが店長すればいいと思うなぁ。
「よぉしノエル、久しぶりの休暇だからルーディまで行こうか? ボーナスも多目にもらえたし」
「いいね行こ行こ、あそこのカフェ今だったら行けるかな、それじゃ準備して早速久しぶりの休暇を..あれ、店長どこ行くの?」
店長どさくさに脱走しようとしてる、いやいや、絶対ルーシーにバレるって。
「ギルバートさん? どこに行こうとしてるのかしらぁ? 労災にその他もろもろの書類の記入といった仕事が残ってるんだからこっちへ来なさい? それらが終わったらお説教よ?」
「ひ、ヒェー」
その後店長はルーシーに大量の書類とともに事務室へ連れてかれた、店長お大事に。
ルーディへはピオスからコルム平原を道なりに歩いて一時間と半分くらいで到着する。私はいつもながら店長が気がかりで歩きながらエイミーに話を振った。
「それにしても店長大丈夫かな? ルーシーいつになく青筋立ててたけど、なんか盛大に搾られそう」
「ありゃかなりお叱り受けてるだろうね。 なにせ日頃の安価での受注に今回のあたし達ランク外の依頼に向かうって事態が起こっちゃったからね、 不可抗力とはいえルーシーは厳しいからねぇ」
そう、ルーシーは約束事を疎かにすることを何よりも嫌う。 仕事回しはもちろんお金に関することも、過去に理由を聞いてみるも物悲しい顔ではぐらかされた。
「ルーシーの時折見せるあの思い詰めた表情はなんなんだろぅ」
「昔なにかあったのかもね、まぁ皆がみんなノエルみたいに過去のことを答えることについて平気ってわけじゃないからね、聞かれたくないことの1つや2つはあるわよ。 ちなみにあたしはフルオープンだからなんでも聞いてよね?」
エイミーのポジティブさにはいつも助けられてる、もしHEART・PROTECTIONにいた先輩がエイミーと真逆の人だったら今もオブリヴの人見知りの激しいノエル・イーシャのままだっただろう。
「それにしてもノエルこの5年でずいぶん明るくなったよわね、初対面のモジモジが今からすると嘘みたい」
「エイミーが人懐っこいおかげでこっちの緊張も和らぐんだよね、今後もよろしくね?」
「あいよっ」
着くなりエイミーは思い切り羽を伸ばさんばかりに背伸びをした。
業務の時は依頼主への応対の完璧さのシャキッと感からのギャップ、エイミーのメリハリのあるとこがなんか落ち着くな。
「いつ来てもこの街って人多いよね、不景気知らずって感じ」
ルーディはピオス、サイラ、シエスト3カ所の丁度通り道に位置する観光地だ。 考古学に鍛冶に漁業、様々な用訪れる人々が通過する場所となって、それが功を奏してか観光地としてうまく機能している。
街の名物『星のカーテン』は初夏の一定期間のみ見れる空一面を流れ星が覆いつくす現象が起こりこれのために訪れる観光客もいるくらいだ。
「あたしこの紅茶好きなんだよね。 茶葉しか使ってないのにどうやったらこんなに果物みたいな香りになるんだろ」
興味深くキラキラした眼で街1番のカフェの紅茶を見つめるエイミー、確かにここの紅茶は芳醇だが値が張る。
1杯1750ファムなんてたまの観光にしてもどんな富裕層がこんなに高いのを注文するのだろうか。
「確かにいい香りだねぇ、それだけになかなかの値段。 でも今日は臨時収入もあるから遠慮しないで済むね」
紅茶の香りと財布の暖かさにご機嫌になるもエイミーが現実を直視せざるを得ない一言を投下する。
「この機会逃したら次の休暇はいつになるかわからないからね、そうでなくてもあたしたちの日々は馬車馬だからさぁ」
「ちょっとエイミー、今のでその馬車馬な日々思い出しちゃったじゃない」
ツッコむ私とツボに入るエイミー、いつ振りだろう、ここまでお腹の底から笑ったのは。
次はどこ行こうかな、久しぶりに服を新調したいところではあるけど。
「ねぇエイミー、私達最近任務も非番も似たような服じゃない? 着分けなくて大丈夫かな?」
「そうしたいのは山々だけどねぇ、ウチみたいな地域密着型じゃ非番の日さえ急遽依頼発生ってのが実情ってとこよね..ん?」
私達の存在に気付いた一回り年下の子は元気よくテクテクと駆け寄ってきた。
「あっ、ノエル姉にミー姉。 偶然だねぇ今日は非番?」
「あっ、やっぱりモニカだ。 私達昨日ロカム村の事件の依頼の後向こうで一泊してから今朝帰ったばかりでね、店長から一週間休暇もらったんだよー」
モニカは私達より一回り年下でありながら召喚の英霊術を使うことができる。
この子の呼び出すゴーレムやオオカミ種のガルムには何度も助けられてる。 ルーシーとモニカはウチの柱と言っても過言ではない。
「ロカム村って3日前くらいから噂になってた幼児が行方意不明のっ!? 犯人も目的も不明ってのは新聞で見たけど、二人共大丈夫だった? 」
モニカが驚いて心配をするもエイミーは親指を立ててキメポーズをしている。
「もちろん解決したわよ。 ノエルの霊素分配、ルーシーの座標転移からのあたしの弓術でかっこよくキメてきたわよ。
「そういえばミー姉。ルー姉は一緒じゃないの? 休暇なら一緒にリフレッシュに来てるかと思った」
「実はランク以上の依頼受けたことがルーシーにバレちゃって..」
「てことは店長はもしかして、もしかしてっ?」
モニカの質問にエイミーと全く同じタイミングで答えた。
「まぁその..お察しで」
第3話 聖堂での激戦・駆けつけた槍術士
「ノエルちゃん、3分で子供たち聖堂から逃がせそう? 守りながらだとそれ以上持たないかも」
「大丈夫、もしもの時はエイミーも援護お願いっ。 子供達逃がし次第私も戻るから」
私がお願いするとエイミーはグッと弓を構えた。
「オーケー。 ルーシー、急所に当たらないギリギリを狙うから隙ができたら後は頼むわね」
2人が交戦の間私は子供たちのとこへ駆け寄る。 『もう大丈夫だよ』と声をかけるとリックを始めニア、ヒューイ、他の子たちも我慢の糸が切れたのかワンワンと泣き始めた。
「うわーあぁぁ、怖かったよぉ。 村長さんが..村長さんがあぁぁ」
「突然聖堂に連れてかれたと思ったら変なもようから出られなくなって、でもなにされるかわからないから泣くの我慢してたの」
(普通の大人でさえ恐ろしく思う状況なのにこの子たちはすごく頑張ったんだろうな)
「よしよし、もう大丈夫だからね。 あのお姉さんたちが村長さん元に戻そうと頑張ってるから、その間にお姉さんと一緒に聖堂から出よ?」
リックたちが『うん』と頷くと私と子供は腰を低くし、行動入り口まで駆け抜けた。途中村長が追いつこうとするも、ルーシーが座標転移に間髪入れず村長を数メル先まで吹き飛ばす。
出入り口までは60メルある。 中腰で走るのはなかなかに堪えたがどうにか向こう側まで辿り着かなきゃ。
今まさに出口へ駆け抜けてる間にも村長はこちらに急接近し異形化した腕を振りかざそうとする。 なんとか間に合いルーシーが槍で弾く、その度に子供たちが怯えるも私はなだめる。
「マて、復讐ノ触バイ、ニガさんぞ」
「ふえっ、怖い、村長さん怖いよぉっ」
「大丈夫っ、このまま頑張って走れば出られるから、お姉ちゃんを信じて」
それから駆け抜けること15秒程、どうにか聖堂出入り口まで辿り着いた。
「ふぅ、なんとか出れたね。 みんなあとお家までは自分たちで戻れそう? 送ってあげたいけど、村長さん元に戻さなきゃいけないからさ、間違っても村の門からは出ないでね。怖い怪物がたくさんいるから」
村に戻れるよう釘を刺しはした。 不安な顔をしないか心配だったがリックが気丈に『大丈夫。 村長をお願い』と言いながら子供たちはそれぞれの家へ帰っていった。
「子供達なら逃がしてきたよ、2人共無事っ?」
どうやら村長のしぶとさに愚痴をこぼしてるようだった。
「まぁ無事っちゃ無事だけど‥」
「この村長さん、やたら硬いわね、なんでこんなに攻撃してるのにダメージ通らないのかしら、硬いしウニョウニョしてる腕なんてすぐ再生するし嫌んなっちゃう。 仕方ない、ノエルちゃん霊素あるかしら、アレやるわよ」
「了解、普通の方法じゃ無力化できそうにないもんね、エイミー、霊素分けるよ、準備いい?」
なんでかわからないけど、霊素分配できる体質でよかった。この体質のおかげで入社時から幾多もの危機を切り抜けてきた。 世の中何が幸いするかわからないものだね。
全霊素の6割を分配してエイミーの弓には無数の霊素の矢が充填された。
「相変わらずすごい量の霊素よね。 じゃあルーシー、タイミング合わせて頼むわね」
エイミーが弓を構え、駆けながら矢を放つ、同時に村長の異形と化した腕が飛び交う。『遅い!』と言いながらかわしたのと同時に次の矢を装填する。 そのまま接近しようとしたら先程の腕が戻ってきた。
素早く物陰に隠れながら撃っては反撃で机や椅子が1つ、2つと壊されていく。
だが霊素の矢のダメージは着実に蓄積され、そこが好機と見たエイミーは弓を構えながら村長に全力での接近を試みる、迫る腕などに臆してはいない。
ギリギリ頬をかすめた。 そしてゼロ距離まで来たところでルーシーに合図をかける。
「ルーシー、お願い!」
ルーシーが座標転移で村長を3・5メル、ルーシーを6メルの高さまで転移させると照準を村長の腕の付け根に合わせ弦を限界まで引き絞る。
「これで最後、村長さん、元に戻って‥行っけえええぇぇっ!」
うあっ、これ大型の魔物を撃ち抜くレベルの威力じゃ‥村長さん床に叩きつけられたよ? でもわずかに息はあるから大丈夫そう‥今のうちにっ。
「エイミー、ルーシー離れて! 善意蝕みし者よ、彼の者に憑きしその怨念冥府にて眠れ、レイズ!」
私は村長さんに呪いを解除する英霊術をかけた、『ぅうん』と少々うなされている、私は強く祈った。 暴れてたのは村長さんだろうけどこれが呪いか何かだとしたら村長さんだって被害者だ。
(お願い、目を覚まして)
それから私達は村長を自宅まで運んでから暴走しないかを見守っていた。見たところ異形化した部分は落ち着いている。
「あ、あなたたちは、ここは? 私はなにを‥」
それから村長に事の経緯を話した。 村のみんなは誰も村長を責めていなかったが、本人は自責の念に駆られている。 意識がないとはいえそんなことをしてしまったわけだから、私なら正気を保てそうにない。
「子供や保護者さんたちに本当に申し訳ないことをした。 わしはもうこの村に‥いや、生きてるのが申し訳ない‥いっそ山奥にこもって一人ひっそりと生きようか」
「ダメです、そんなのダメですっ」
思わず叫んでしまった。 でも、不慮のできごとで正気がなくなって村人から信用を失くしてしまうかもしれない、なんかそれがいたたまれなくなって叫ばずにはいられなかった。
私に続いてエイミーが説得にあたった。
「そうだよ村長さんっ、今回の件で子供達のことや保護者さんのこと色々あるけど、それでもこの村を維持してきたのは村長さんでみんなもそれを忘れてなんていないはず‥」
すると村長宅の扉が開いて、子供や保護者さんたちがやってきていた。
「リック‥ニア、みんな‥わしは、ワシは‥」
ワナワナと泣きそうな村長にリックが1番に近づいて慣れてるように話しかけていた。
「あっ、やっぱいつもの村長さんじゃん、聖堂でのあれはお化けが取り付いてたって本当だったんだね」
「ニアも信じてるよ。 村長さん怖い人なんかじゃないって」
「君たち‥保護者さんや‥」
「息子たちの言う通りですよ村長。 あなたは我が家が大変な時村中で明日の飯の工面をしてくれた恩を忘れてはいません」
リックのお父さんに続いてニアのお母さんも説得する。
「そうですよ。 ガルムが畑に侵入して困ってた時も人知れず柵を作ってくれていたのは村長さんですよね? 私も知ってますよ。 子供達も無事帰ってきましたのでこれからの対策を考えましょ?」
「み、みんな‥ありがとう‥ありがとう」
こうして今回の騒ぎはなんとか終息を見せた。 だがなぜ村長は正気をなくしていたのか、
あの陣はいったい‥私が色々考えを巡らせる横でエイミーが聖堂での疑問を投げかけた。
「そういえば村長の『コノセカイにふくしゅうを?』あれなんだったんだろうね」
「私もそれが引っかかってさ‥少し時間もらえるかな? ちょっと調べたいことが‥」
第2話 失踪した子供
「エイミー、村まではあとどのくらい? 急がないと、子供たちが」
「焦らないでノエル、ここで私達が体力を使い果たしたらなにもできなくなる、そしたら本末転倒よ」
確かにエイミーの言う通りだ。 急ぐのはもちろん大事だとして、なによりの目的は子供たちを無事に見つけ出すこと。
私とエイミーは腰に掛けた容器から水分を補給すると呼吸を整えてからひたすらと進みロカムを目指した。
途中急ぎ過ぎたからか足に若干の痺れを感じる。 こういう時ヒールが万能だったらな..怪我は治っても疲労は治らない不便さについぼやきたくなる。
「せっかくの古来伝承の英霊術も疲労回復は薬草に負けるってのがなんかなぁ、裂傷や骨折にその他あらゆる怪我のほとんどが治せるなら走った痺れくらいさぁ」
「まぁまぁノエル、怪我が治るんなら御の字じゃない、術を生み出した人は滋養強壮より治癒を取ったのならそれだけ昔は過酷な時代だったってことじゃない? そうそう死なない時代に生きれてるだけ感謝かもね」
確かにエイミーの言う通りだ。 昔はあちこちで戦乱が勃発していたんだとか、そんな戦の渦中に置かれるなんて考えただけでゾッとする。
肝が冷えるような錯覚を覚える頃には脚の痺れは消え去っていた。
「なんとか楽になったね。 子供たちが心配..急ごう」
焦らず急いでどうにかロカムに到着したのだが..どうにも違和感が拭いきれない。
事件の渦中だから村に活気がないのはもちろんだがどこかおかしい。
「ノエルも気づいたっぽいね。 少数の子供さえいないなんて、この時間ならこの辺りで遊んでるはずなのに..あそこの大人たちも多分捜索してるんじゃないかな?」
私達は事情を知っはいるがいきなりすぎると取り乱さないとも限らないな。
少し形式ばる感じで聞いてみよう。
「こんにちは、私達ピオスのHEART・PROTECTIONです、どうされましたか?」
夫人は憔悴しきった様子で問いに答えた。
「もうリックが、息子が7日も帰ってこないんです。 主人も一緒に探してくれてますが、手掛かりが全然見当たらなくて、私、どうしたら..」
取り乱す夫人にエイミーが対応してくれた、エイミーナイスっ。
「大変でしたね、大丈夫ですよ。
お話の程は伺っています。 そのために私達は来たのですから..今から村長さんのお宅に向かいます。
奥様もきっと疲れていることでしょう、 後は私達に任せてどうかお休みになってください。
エイミー接客応対丁寧ですごいなぁ、いつもの活発さからしたらすごいギャップだよ、私じゃ真似できない。
夫人は『どうか..後をお願いします』と一言だけ告げるとおぼつかない足取りで自宅へと帰られた。
夫人を見送り終えたエイミーはがぜんやる気を見せる。
「さて、村の事情はおおよそ掴めたから村長さんのお家に行こうか」
「そうだね。 村長さんならもっと重要な情報知ってそうな気がする」
「あなた方がHEART・PROTECTIONの方々ですな?」
村長がこちらに元気がなさそうに尋ねてくるとエイミーは返答後、改めて事件の経緯を尋ね返した。
「その通りです。 おおよその経緯は店長より伺ってはいますが業務上、今一度詳しい事情を聞かせてくれませんか?」
「そうじゃのぅ、事の始まりは一週間前じゃった。 村一番元気なリックが帰ってこなくなったんじゃ。
それから後に続くように他の子もどこかに行ってしまっての..村から出るとは思えぬが、きっとあそこ以外行くとは思えぬのじゃ」
「あの、あそことはどこですか? 7日間そこは捜索しなかったんですか?」
問いかけるも一瞬都合が悪いように下をうつむく村長、なぜだか気味が悪い。
妙な違和感を感じる、なにか..村長は尤もなことを言ってるようで何かを隠してるような、あそことは?
「わかりました。 子供たちは無事見つけます任せてください!」
エイミーは意気揚々と答えてる風に見せてるが怪しんでるのが私にはわかる。 彼女は物事を怪しむとこめかみがピクピク動くのを何回も見てきたから今回もなにか裏があるのだろう。
早速捜査に乗り出そうとする私達に村長は『村の外に出ることはまずないので村内を重点的に探してください』と一言添えてきた。なんでわざわざそんなことを?
「エイミー気付いた? なんか村長さん話の途中からなんか怪しい」」
「ノエルも? あたしも同じことを思ったわ。 行方不明から一週間経っての依頼したならなぜ探してない場所が残ってるの? 村の外を探すのを頑なに拒む理由は? いろいろと不自然すぎるわ」
「とにかく急がなきゃね、確か村の人の話だと村長さん最近祠に出入りしてたみたいだから私はそこを重点的に探してみる。 エイミーは聞き込みの方よろしく」
エイミーは『任せて』というと村の各世帯に聞き込みに向かった。
さて、祠は村の各所に4つ..東の祠から調べてみよう。
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「うわっ、祠ってこんな陽の射さないとこにあるんだ。 確か効いた話だとこの辺り..あった。 これは、なにかのメッセージ?」
--2の月、正午の時太陽は月と引き合い天と地を繋ぐ--
これだけだとよくわからないから全ヵ所を回ってみようと思い西の祠に向かったらまたも奇怪なメッセージが残されていた。
--2の月、正午にて月の上の供物を神の光は照らす--
また正午だ。 なにがあるというのだろう、なんか胸騒ぎがする。
南の祠には『太陽と月が引き合い、冥府の者を再臨す』と残され、最期に北の祠のメッセージを読んだ時、全てを理解した私は急いでエイミーの元へ向かった。
これまでの祠のメッセージと北の祠のメッセージを繋ぎ合わせたらそれはおぞましい意味を表していた。
--2の月の正午、東から昇りし太陽は月と共に天地を繋ぎ神の光が供物照らす時、冥府の者再臨す--
聖堂は生者と死者を繋ぐ場所で正午は太陽と月が対角線になる時間、この世とあの世を結ぶ施設は聖堂。 供物は..まさかっ!
最初からおかしいと思った。 なぜ村長は不審者の可能性を示唆しなかったのか、なぜ村内に固執したのか、そして祠がどういう意味を示しているのか、急がなきゃ!
「エイミー聞いてっ、急いで聖堂に向かわなきゃっ、村長さんが..急がないと子供達がっ」
「村長がクロなんでしょ? 言いたいことわかるわよ。 聞き取りしてたらどれもおかしな点だらけじゃないの」
「エイミー、どうしてそれを?」
「村の人に聞いたら村長が村人に『あとはワシと便利屋さんでなんとかするので関わらないように』と釘を刺したみたい。
それに外部からの誘拐の可能性を頑なに否定したこと、シスターは聖堂から出るよう言われたのを聞いて変だと思って再度聞き取りしたらリック君の両親は村長にバレずに捜索していたこと。
どう考えてもおかしいと思って村長宅に行ったらもぬけの殻なのよ。 ノエルの方はなにかわかった?」
「うんっ、各祠の陣全て繋ぎ合わせたら村の聖堂を示す矢印になった。 それで聖堂の位置の陣の上に人の絵柄があったからまさかと思って..」
「これ、生贄とかの類の紋様じゃない..子供達さらってなにしようっての? 急ぎましょ、手遅れになる前に止めないとっ」
私達は体力の限界を迎えても走り続けた。
脚の震えが止まらない、だけどそんなことはかまっていられない。 一刻も早く急がないと子供がっ
「ノエル、聖堂ここで..合ってるよね?」
「だっ、大丈夫なは..ず。 まず、落ち着いて..」
息を殺し扉に耳を近づけた。 扉の向こうから子供の『かえりたいよ』 『こわいよ』。
恐怖の声が聴こえる、急がなきゃ..でも下手に開けたら子供が..
「ノエル、霊素分けて!」
「え? うん、でもなにを..」
「はあぁぁ、吹っ飛べえぇー!」
エイミーは弓から霊素の塊を放つ。 すると扉は派手に砕け散り、私とエイミーは急いで聖堂内へ進んだ。
「なにこれ..ひどい」
連れ去られたであろう子供が縛られた状態で陣の上に座らされてる、最低限の食しか与えられなかったのか、ひどく痩せこけてる。
「待ってて、今助けるからっ、えっ?」
近寄ろうとした時、見えない何かに脚を掴まれた。
「ノエル! 村長..アンタ子供やノエルになにしようってのよ! 待ってて今っ」
「来ないで! エイミーまで捕まったら..私はなんとか抜けれるかやってみるから策をっ」
うわごとらしきことを言う村長..正気を失くしてる?。
「ニエヲ、こノ世カイにフクシュウヲ」
「策って、火の矢も雷矢もここからじゃ子供にまで..
」
(ダメだ、引きずり込まれる)
抵抗するも私は引きずられ陣に到達しようとしていた。 だが次の刹那、視界が強く光ったことに気付いたのと同時に私は入り口に戻っていた。
助かった? それよりもこの転移術はもしかして..。
「ヤッホ、ノエルちゃんにエイミーちゃん」
突然現れたパープルのポニーテールのお姉さんに私達は思わず驚きの声を上げた..見たところ怒ってるっぽい。
「ル、ルーシー!? 別の依頼で席外してたんじゃ」
「ちょっと店長から通信入ったから早めに戻って来たのよ。
まったくっ、なんでウチってこうも人手不足なのかしらっ。
とにかくこの村長さん見たところ正気じゃないみたいだし、ノエルちゃんにひどいことした罰も含めてお仕置きしなきゃね」
「村長さん操られてるかもだから手加減だよ? エイミーはルーシーの援護に行って、私は子供たちを逃がしてくる。
急がないと。 お願い、無事でいて..
第1話 便利屋、HEART・PROTECTION
「さてと、今日も依頼主さんのため、行ってきますっ..一人暮らしだけど..」
「ノエルちゃんおはよう。 この前はペンキ塗り手伝ってくれてありがとね。 エイミーちゃんにもよろしく言っといて」
「ミモザおばさんありがとう。 よろしく伝えときますっ」
「ノエル嬢ちゃんや。 昨日はわしのペットのを捜索してくれてありがとの。 ルーシーちゃんいつも忙しそうだから無理しない様言っといてくれ。 それからモニちゃんにはもっと子供らしく遊ぶよう言っといてなぁ」
「ビッケおじいさんどうもーっ、ルーシーには特に伝えておきまぁすっ」
よかった。 今日も朝から街が平和で。 それも私達の活躍のたまものかな。
私、ノエル・イーシャは水上都市ピオスで便利屋を始めて5年。 だいぶ慣れて来たなぁ。
今日も好調なスタート..と思いきや事務所から怒り声が聞こえいつもの事かと思いドアを開けたら..まぁいつもの事だった。
「ですから、ウチは爆発物や違法薬物や武器の運びはやっておりません..えっ? 他に受けてくれるお店はないか? それもほう助になるので知りませんっ、ウチは健全な稼業なんで衛兵に通報しますよ?サイナラ!!
まったく、そろそろ本当に通報しようかな」
「あはは。 エイミーだいぶご立腹だね。 そのせいか前より髪色濃くなった気がする」
『これは元々っ』と言いながら同僚兼親友のエイミーはセミロングの赤髪をかき上げながら愚痴っぽくさっきの出来事を話してきた。
「だって今月だけでもう2回よ? そんな頻度で違法な依頼来たらそりゃ通報の一つもしたくなるわよ..あっ、今月2月だから来月でノエルがウチに来てから5年かぁ、どう? 塔に関する記憶なにか思い出せた?」
エイミーはこうして気にかけてくれるが、14歳の頃、故郷オブリヴの塔に生贄に出された私はその部分の記憶だけが抜け落ち、当時の記憶は未だ戻りそうにない。 塔の呪いで故郷を出ざるを得なくなり母さん父さんとは離れ離れでもうだいぶ会ってないなぁ..強がってもどうせバレるから正直に答えるか。
「いやぁ全然 でもここでいろんな仕事しながらあちこち巡ればそのうち思い出すんじゃないかな?」
「そうだね。 ノエルが定住型じゃない仕事選んだのもそれが理由だものね。 それなら、遠方の依頼をどんどん受けようか、ノエルの手がかり見つかるかもしれないし店長ももうすぐ仕事拾ってくるだろうからさ」
ウチの事務所は地域密着型、それゆえ仕事は待つだけでなく街の人に聞き込みをして足で探すことも多々ある。 ただ、ここの店長ギルバートさんがよく安価で安請け合いして毎月赤字なんだけどね。
2週間前もルーディまで旅行者の護衛をわずか3500ファムで受注してルーシーからこっぴどく怒られてたっけな..と噂してたらドアの開く音が、おっ、帰って来た来た。
「2人共、仕事が入ったんだが、急なところ大丈夫か? 急ぎの依頼なんだ」
ーー依頼内容..行方不明の子供の捜索ーー
「ノエル・イーシャ、エイミー・セルジュ。 この依頼、頼めるかな?」
「店長、この依頼あたしとノエルだとランクが不足してると思うんだけど、それに後でルーシーに怒られない?」
ルーシーは規則に厳しい、ランク不相応の人を依頼に出すなんて絶対許さないから後で店長お仕置きかも。
「責任は私が持つ。 エイミー、ウチの経営方針言えるか?」
「『顧客も携わったスタッフも縁した全てが笑顔に』でしょ? わかってるわよ。 ノエルっ、急ぐわよ」
そうだね。 なんとかしよう、子供の無事考えたら背に腹は代えられないよね。
「あっ、うん待ってエイミー」
塔と生贄とリベレーター・帰還者の便利屋は託された想いと共に悲劇の連鎖をその手で断ち切る
水上都市ピオスで便利屋として記憶の手がかりを探すノエル。 長らくなんの手がかりもなかったがある一つの依頼をきっかけに全ての歯車は動き出し.. これは便利屋として世界を巡った彼女が生贄という風習によって起こった悲劇の連鎖を断ち切り、遠い未来に神話となる物語
挨拶
この度当ブログでなろうで連載してた小説 「塔と生贄とリベレーター」をブログ専用で連載することにしました。 よろしくお願いいたします。