第6話 街の危機!? 休日の防衛戦
「さてノエル、どうする? 下手に動いたら怪我じゃ済まないわけだけど..」
そう、今私達は文字通り進んでもピンチ引いてもピンチといった状況になってる。
フォーメーションとしてはオオカミ種のガルムが右手に3匹、人型ゴルガが中央に2匹、鳥種のピークが左手に3羽。
この状況どうにかするには私かエイミーどちらかが目立ち過ぎても全滅するからなんとか上手くけん制しないと。
「エイミー、アレやるの久しぶりだから上手くいくかわからないけど先に霊素送っとくね」
「大丈夫なの? あたしはともかく、ノエルへのリスクが..」
エイミーの不安をよそに私は短剣を逆手持ちにした状態で構える。
「どっちにしてもリスクは変わらないよ。 私達がここを守れなきゃルーディのみんなの住むとこがなくなっちゃうもの、それが痛いほどわかる」
「ノエル..そうだね、みんなの住む場所守らなきゃねっ..援護は任せてっ」
『任せた』と言いながら構えた体制のまま魔物の群れに駆け出す。 そのまま突っ込んだらただ自殺同然に猛攻を浴びに行くに過ぎないわけだが、こっちも無策のままなわけじゃない。
「させないよ、付随、火炎っ、」
私は短剣に炎を纏わせ正面から迫るゴンガの拳を回避からそのまま右へ旋回しつつガルムを捉える。
「もう一発、はぁっ!」
振り向きざまに刃を突き立てガルムをゴンガ目掛けて突き飛ばした、霊素を右手に集めすぎたせいか少々痛い。
「エイミー、雷矢だよっ」
「オーケー、なんか良心痛むな」
エイミーが放った矢の電流は魔物周辺の炎に引火し、大爆発を引き起こした、その一撃で魔物の群れの半分以上が一瞬で吹き飛ぶ。
「それにしてもこれって奥の手よね? 奥の手先に出しちゃう?」
「出し惜しみしてたら多勢に無勢だからね、先に数減らしておかないとこっちが危なくなっちゃうよ。 でももう霊素が半分程度だから同じ手は使えないかな」
私の回答にエイミーは少々慌てていた。
まぁ確かに危機的状況でケロっと『半分』なんて言われたら焦るよね。
「ちょっ、半分程度って、どうすんのよ? あたしも矢は5本しかないわよ?」
「5本もある、私とエイミーならやれる、前線は任せて」
「もぉ、わかったわよ、そんで、策は?」
エイミーの問いを背に全身に霊素を込めて駆け出しながら答える。
「私が隙を作るからエイミーがそこに矢を撃ちこむ、オーケー?」
「行き当たりばったり? 店長スタイル? ほんっと無茶するんだから―」
なんてやりとりをしていたら接近してきたゴルガが大振りの拳を放ってくる、それを左へ避けた直後、斜め上からピークのついばみが襲い掛かってきた。
「読めるっ、エイミー!」
「任せなさいっての」
ついばみを弾き返されたピークにエイミーの矢が胴体にヒットする。 『バサッ』と音を立てながら宙を舞う鳥は真っ逆さまと地へ落下しその姿は煙と化す。
ピークが消えた? いや、まだガルムが残ってる、集中しないと。
その後もゴルガのスローな拳をかわしつつガルムを仕留めるもやはり煙と消え、その状況に私もエイミーも唖然とする。
「さっきのピークといいどういうこと? 生きてる以上遺体が残るはず、なのにこれは・・まぁそんなことは後回しか、あとはゴルガ1頭ね、多分さっきの仲間がやられた怒りでコイツかなり攻撃的になってると思う、ノエル、大丈夫そう?」
「大丈夫なようにする、私も怪我したくないからね、付随・加速」
霊素を風に変換させる。足に力を込めてゴンガのかく乱を開始した。
「ノエル、くどいようだけど、絶対当たんないでね。 そいつの拳の威力は800KG、食らったら骨砕けるわよっ」
「もちっ、隙ができたとこを斬りかかるからエイミーは目立たないようにしといて」
ひたすら周囲を走り回り、拳が飛んできそうになったらステップで避ける、隙ができたとこに斬りかかるを繰り返すが、これが簡単ではない。
なにせ同じところをぐるぐる周るから目が回り三半規管が疲弊する。 そんな中で致命の一撃を避けなきゃならないわけだからまさに命がけ、英霊書も読んでおいてよかった。 もし怠ってたら今日が私達の命日になってたに違いない。
「うあっ、あぶなっ、はあぁぁっ」
「ノエル―! もう8発は与えてると思うけど撃って大丈夫そう?」
まだ、ゴルガは皮膚がとても厚い、8回斬りつけたくらいじゃ矢なんてとても効かない、せめてあと2発、それさえ決まればっ、そう考えていた時だった。
「え? 待ってちょっと、エイミー逃げてっ」
「え? うわあぁぁ!?」
私を捉えきれず痺れを切らしたゴルガは急旋回をして標的をエイミーに切り替えた。 まずい、この位置からじゃ間に合わない。
次の瞬間、ゴルガが地に放ったナックルの余波で飛んだ岩がエイミーの足首を捉える。
「ごめん..あたしもうダメかも、なんとかノエルだけでも……」
そんな、私はなにも失くさない自分になりたくてHEART・PROTECTIONの門を叩いた。 ここで一人でも守り切ることができないなら私は二度と自分を許すことができないっ。
「ノエルっ、なにをっ」
気づいた時には私はエイミーを庇うようにゴルガの前に立っていた。
「大丈夫だよエイミー。 HEART・PROTECTIONが1人でも立ってるなら、犠牲は出ない..絶対に出さないっ」
胸のペンダントから普段私が使い慣れてる霊素のそれとは違うものが沸き上がってきた、ゴルガの拳が眼前に迫るが、構わず逆手に持った短剣を拳の甲に突き立て、怯んだ一瞬に手の甲を踏み台にして蹴り上げを仕掛ける。
「見える、いくらゴルガといっても、眉間は鍛えようがないよね、そりゃあ!」
信じられない、残った限りのありったけの全力..だとしてもゴルガを怯ませた? 勝機を見出し、一点に意識を集中して放った一閃はゴルガの弱点を正確に貫いていた。
「エイミーっ、今度こそ、これ逃したら次はもう、ないっ」
「了解、ノエルの作ったチャンス、無駄にはしない‥‥はあぁぁ、炎弓・焔!」
エイミーの放った炎は霊素により何倍にも増幅してゴンガの胸部を貫いた。
ゴルガが倒れ、その身体から蒸気が出てきている、その隙にエイミー側にかけより残ってる霊素を振り絞りリザレクトをかける。
「ごめんねエイミー、前線出られる私がいながら守れなくて、次はもっと私強く、んぐ?」
なぜか鼻をつままれてしまい思考が止まる、どことなく『もぉ』と呆れてる感も‥‥。
「まぁたそういうこと言う、こういう稼業である以上怪我は付き物だし怪我したのがもしかしたらあたしじゃなくてノエルだったかもよ? でもノエルのことだからノエルが怪我したって『足引っ張ってごめん』とか言うんでしょ? そういうのナシ、ダチなんだからねっ」
「そだね、ありがとう..それにしてもゴルガまで姿が消えた? これはいったい・・」
私とエイミーが警戒していたところ、『2人ともー大丈夫ー?』と聞き慣れた聞こえてきた。
「モニカっ、街中はもう大丈夫なの?」
「もっちろん、スラちゃんとゴーレムちゃんのおかげで魔物は全部やっつけたし怪我人も出さないで済んだよ」
「さすがモニカ、あたしはちょっとドジったっぽい、でも最後はノエルがチャンス作ってくれてなんとかなった。ゴルガのパンチを短剣で無効化したかと思ったら頭へ蹴りとか決めてるんだもの、回復術したり短剣を振ったり格闘術をこなす、ノエルの職業ってなんだっけ?」
「なんだろね、私自身ナゾ」
でも謎なのは本当だ、さっきの拳をいなしてからのあの流れはいったい‥‥いくら強化の英霊術を使ってもその効果はせいぜい三倍まで、まして私は強化術なんて習得していないのに明らかに4倍はあろう力が出ていた、人一人の
強化の上限を超えている。 これも塔の一件が絡んでるのかな。
自身の過去に考えを巡らせたいとこだがモニカから報告が入ったからそれは後にすることにした。
「そんじゃ、ミー姉の応急手当終わったし街に戻ろうか? 市長さんが話しあるんだって」
市長さんが話? どんな要件だろう。